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第80回 大江千里さん

第80回 大江千里さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、ジャズピアニストの大江千里さんです。
大  江
おはようございます。
住  吉
1983年にシンガーソングライターとしてデビューされて、ヒット曲をたくさん出されています。そして、2008年にジャズピアニストを目指して、47歳でアメリカへ渡られたと。
大  江
はい。2008年1月10日。飼い始めた、まだ1歳ぐらいの犬と一緒に。右と左に3つぐらいバッグを持って、スーツケースをガラガラ引きながらシカゴに入ったんです。そしたら、学校に入ったんですけども、その学校に必要なスチューデントビザの2枚つづりの1枚を捨ててしまっていたんですよ。日本から、留学生の子がどんどんスタンプを押してもらって入っているのに、僕だけ別室に行って…。そこで4時間拘束されて、シカゴからニュージャージーへの便を2本スキップしたので、夜中に着きました…。
住  吉
その時にはまだ色んなことが未知で、どうなるかわからない…という気持ちでいらしたんですか?
大  江
僕、アメリカに渡るまでTOKYO FMホールで7年ぐらい、毎週セッションをする番組をやっていまして。人生ってセッションで、何が起こってもおかしくないし、アンテナがパッと響いた時に「これをやろうか! 来ているよね!」というのを逃すと別の方向に行ってしまう…ということを毎週生放送でやっていたので、その時期に何となく、「ティーンエイジの頃に好きだったジャズをまだちゃんと勉強していないから、これをやらずに人生を終えることはできない。そうはっきりしているんだったら行こう」と思ったんです。
住  吉
すごい…! それから、もう10年?
大  江
11年目になりますね。大学も、若い子はみんな飛び級で2~3年で卒業するところを、僕は4年半かかったんですよね。やっぱりネイティブな人に比べて、速度が遅いんです。
住  吉
言葉もありますからね。
大  江
言葉もあるし、ジャズの知識も少ないし、覚えることだらけで。それで何か曲を演奏すると、「違う! ポップスのノリになっている! ジャズじゃない!」と言われるから、「やめてー!」という感じでした。地下鉄に乗っている時も、膝をスウィングさせていたり、突然耳から入ってくるレッド・ガーランドを歌い始めたりするから、「あぁ、変な人だ…」ってみんないなくなる(笑)。
住  吉
そのぐらい、24時間、心の中で常に特訓していらしたんですね。4年半で卒業されて、そこからもう6年ぐらい経っていますが、むしろ卒業した後、実際に社会で勝負していく方がアメリカだと厳しそうですよね。しかもニューヨークはジャズの本場ですし…。
大  江
そうですね。自由の国アメリカ、というイメージがあったんですけど、閉鎖的なんですよね。コネがないとなかなか社会の中に入っていけないんです。僕の場合ラッキーだったのは、大学に行って、特別にピンポイントで仲良くなった先生や先輩がいて、そこから知り合いを広げて、それがまた次のところに刺さって…ということがありました。でも、最初はなかなか大海に船を浮かべても波は起こらないし、オールもないし、下手すればスーッと戻ったり…という感じの日々でしたね。
住  吉
そういう中で、これもご自身の中での新しいチャレンジというか、オールなのかもしれませんが、デビュー35周年記念アルバム『Boys & Girls』がリリースされたばかりです。J-POP時代の楽曲をピアノ1本でセルフカバーされているというアルバムで、曲を知っている方も知らない世代の方も心地よく聴けると思います。このために作った曲かなというくらい、ジャズピアノにもぴったりなんですね。
大  江
そうですね。作る過程では結構大変なこともあったんですけど、アメリカでライブをやっていた時、ジャズのライブが終わって一番最後に『Rain』をやったことがあったんです。各地で色々とやっているんですけど、その日は「ブラボー!」と立った人がいて。その男性がハグしてくれて、「この曲は良いよ! 絶対に詞をつけて歌った方が良いよ!」と言われて、僕も抱き返しながら心の中で「ついとるわ」って(笑)。
住  吉
もうやっとるわと(笑)。アメリカ人でもそういう風に思うということは、やっぱり音楽って一緒なんですね。
大  江
だから、僕がやってきた音楽は日本で大事に引き出しにしまって…という風に考えなくて良いんだなと思って、目からウロコが落ちました。
住  吉
弾いていると、歌いたくはならないんですか?
大  江
あぁ…でも、心で歌っているというか。僕は、ジャズのメロディーもそうだし、インプロビゼーション(即興演奏)もフレーズもそうなんですけど、最初、自分の心の景色を引っ張り上げるために、必ず言葉をつけるんです。