収録スタジオ訪問

ラジオ収録後の単独インタビュー:津金昌一郎 先生

科学的根拠に基づいた、がんやその他の病気予防情報を伝えるために研究しています

津金昌一郎 先生(独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部長)

 WEBサイト「キラ☆キラ健康サポート」で、健康サポート特集「がん予防」のコーナーをご監修していただいている津金昌一郎先生が、ラジオにも登場されました。収録スタジオを訪ね、長年尽力されているがん予防研究について、お話を伺いました。

インタビュー/Webサイト編集部(インタビュー日:2011年8月24日)

ゲストの津金先生へのインタビュー
――― 津金先生といえば、「多目的コホート研究」の主任研究者として知られています。多目的コホート研究とは、わかりやすくいえば、どんな研究なのでしょうか。
津金 コホート研究とは、数万人以上の特定の集団を対象に、嗜好や生活習慣などの調査を行い、その後何年も追跡調査を行うものです。私たちの行っている「多目的コホート研究」は、日本各地の約10万人を対象にした、20年あまりにわたる大規模追跡調査です。多目的コホート研究では、がん以外にも、脳血管疾患や循環器疾患、糖尿病など、生活習慣とさまざまな病気との関係を調査しています。
たばこや酒の飲みすぎが、健康によくないことは誰でも知っています。それら嗜好や食事、運動、睡眠などの生活習慣が、がんやその他の病気の発生にどのくらい影響を与えるのか、数値や確率によって定量化し、科学的に明確にする研究です。その結果を、国民の皆さんに正しく伝えることが、私たちの役目です。
――― コツコツした地道な研究の成果が出るのは、10年後や20年後では、気が遠くなりますね。
津金 手間はかかりますが、正確なデータが得られます。生活習慣とは、数年のうちに身についた思考や行動パターンのクセであり、本人にとっては居心地のいい状態なのです。健康のためとはいえ、これを「変えてください」ということは、いやなことをやらなければならない、おいしいものを食べられなくなるといったことも出てきます。
行動変容をすすめることは、ある意味、その人の価値観・人生観に踏み込むことです。 そのためには、なんとなくいいとか悪いとかではなく、明確な科学的根拠に基づいた情報をお知らせる必要があると考えています。この点ではコホート研究は、大きな意義があります。
――― 国立がん研究センターのホームページ(多目的コホート研究)を拝見すると、例えば、コーヒーを毎日飲む人は、ほとんど飲まない人に比べ、肝臓がんの発生率が約半分に減り、たくさん飲む人ほど発生率の数字が低下するというデータも発表されていて、興味深いですね。
津金 意外な結果を得られることもありますが、たばこは吸わない、野菜や果物は不足しないようにとる、運動するなど、当たり前とされてきたことが、がんやその他の病気予防に大切なことが改めて解明されることが多いのです。逆に、当たり前だとされてきたことが、否定されることもあります。
当たり前のことでも、裏づけが明確になったことは、しつこいくらい何度も何度もお話することが重要と考え、講演会、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど、機会をいただくたびにお話しています。
――― ご本人やご家族に病気経験があると、再発予防に関心が高いのですが、健康な人に予防を訴えるのは、難しいと思われます。だからしつこく何度も知らせる必要があるのですね。
津金 はい。治療は目前に明確な問題があり、医師はその問題を解決するための手段をとります。結果の良しあしも短期間にわかります。一方、予防は痛くもかゆくもないときに、本人が何かのアクションを起こすものです。結果もすぐには出ない中で、努力を継続しなければなりません。また、予防には本当にこれがいい・悪いを測る尺度もありませんから、試行錯誤することにもなりやすい。
また、治療は国家資格を持った医療者しかできませんが、予防は誰でも実行できるし、誰でも発言できるのです。結果がすぐに出ないし、現実は、長年追跡して統計をとらない限りわかりませんから、無責任なことをいう人も出てきます。
そういう意味でも、国民の皆さんに正しい知識や情報を伝えることが、私たち予防研究に従事している者の役目だと思います。
――― コホート研究は長年かかるので、研究者にとっても大変ですが、ご協力いただく被験者の方々にとっても大変ですね。
津金 ご協力いただく皆さんには、ご自身のためというより、次世代のために貢献してくださっていて、とてもありがたいです。もちろん、ご自身やご家族の健康に役立ってもらおうと、研究の成果をお届けしています。
――― 多くの先輩の皆さんのご協力で得られたデータや情報は、私たち後輩はしっかり受け止めることが大切ですね。
津金 そうですね。賢明な受け止め方としては、あれはダメ、これはダメ、またはこうでなければならないといった、自分を縛る生き方より、たくさんの選択肢の中から、仕事や生活や価値観など自分の生き方に合ったことを選び、バランスよく組み合わせて実行したほうが、長続きしやすいですよ。
また、私たちの研究では、これをやったらいいとか悪いとかの情報だけでなく、たとえば100gまでは影響は見られないが、200gを超えると影響が出るといった度合いのことも正しく伝えることが大切だと考えています。国民の皆さんに、こういった情報をバランスよく受け取っていただきたいと思います。
――― バランスというのが、一般の人にはなかなかわかりにくいものです。
津金 基本は、最低限「自分にとって、これはやってはいけない」、あるいは「これはやらなければならない」というルールをつくり、あとは自分が心地よい生活をすること、やりたいことはやるという生き方がいいと思います。
――― それだったら、できそうです。健康になるために努力することが、ストレスになったら、何のためかわかりませんからね。
津金 「がん対策基本法 第6条」では、「国民は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣が健康に及ぼす影響等がんに関する正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、必要に応じ、がん検診を受けるよう努めなければならない」とうたわれています。正しい知識を持って、がん予防に努めること、がん検診を受けることは、国民の責務になっています。
国民の皆さんが、がん予防についてだけでなく、その他の病気予防についても正しい知識を持っていただき、実際に予防につなげていただくために、このようにラジオを通して多くのリスナーに健康情報を伝えていらっしゃる、協会けんぽさんの取り組みは意義が大きいと思います。
生活習慣の改善を呼びかけ、病人をつくらない社会にしたい。その思いは、協会けんぽさんも私たちも同じです。


スタジオ訪問時の放送内容