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性差に合わせた栄養管理を

性差に合わせた栄養管理を

 情報が多すぎて、健康のために何を積極的に食べて、何を食べるのを控えるべきか、よくわからなくなりますね。また、今までの日本人のデータによる健康予測は、生活習慣が大きく変化したことから、必ずしも未来予測に使えなくなってきています。女性の場合は、月経開始年齢が早くなり、未婚・未出産が増え、リプロダクティブヘルスにも大きな変化がみられます。生活習慣病と性ホルモンには密接な関係があるため、「産む・産まない」を含めて、自分のリスクをしっかり知り、生活習慣病にも備えていくことが大事になります。栄養管理も「個別」の時代に入ってきました。

厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」と日本動脈硬化学会ガイドライン

 厚生労働省は平成25年4月に、今まで行われてきた特定健康診査に対し、標準的な保健指導プログラムを策定しました。血圧、脂質(LDL-コレステロール、中性脂肪)、血糖、尿酸、尿たんぱくの値や、喫煙歴、肥満や基礎疾患(糖尿病や心筋梗塞など)の有無に応じて、どのように対応すべきかが書かれています。性や年齢についての区別はありません。

 一方、平成24年には、日本動脈硬化学会が「動脈硬化疾患予防ガイドライン」を作りました。これは、日本人の長期にわたる観察研究から、性別、年齢、冠動脈疾患の既往、喫煙歴、糖代謝、脂質(総コレステロール)、血圧による心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)の今後10年に起こるリスクチャートを参考に対応法が書かれています。 この2つの案から、「あなた」がどうすればよいのか、考えてみましょう。

Aさんは、50歳女性。今まで大きな病気になったことはなく、コレステロールや中性脂肪も正常範囲でした。たばこは吸わず、アルコールはお付き合い程度です。2年前ごろから月経不順となり、3か月前から月経がありません。今年の健診結果は、総コレステロール値270mg/dl、LDL-コレステロール値160mg/dl、HDL-コレステロール値60mg/dl、中性脂肪値200mg/dlでした。血圧は今までは正常でしたが、今年初めて130/85mmHgとなり、少し高いと言われました。

Bさんは、50歳男性。35歳ごろか太り始め、コレステロール値や中性脂肪値が高く、肝機能値、尿酸値も高く、血圧もやや高いと言われてきました。今年の健診結果は、総コレステロール値270mg/dl、LDL-コレステロール値160mg/dl、HDL-コレステロール値60mg/dl、中性脂肪値200mg/dlでした。血圧は130/85mmHgでした。タバコは以前は吸っていたのですが、2年前に禁煙しました。

 標準的指導(下表参照)では、②「生活習慣を改善し、数値が改善しなければ医療機関受診」に該当します。アドバイスの内容は、「飽和脂肪酸が多い動物性の脂肪を控え、多価不飽和脂肪酸が多い植物油や魚を摂る。また、卵などコレステロールの多い食品も控え目にする。禁煙する。3~6 か月後に再検査を受ける。もしあなたが糖尿病、慢性腎臓病、心血管病(心臓や血管の病気)などをもっている場合は、すぐに医療機関で検査を受ける」となっています。
 Aさん、Bさんともトンカツやステーキはやめ、お寿司、刺身、そばを食べるようにしました。健康によいと言われるオリーブオイルは増やしました。

【健診判定と対応の分類】

(出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化疾患予防ガイドライン」)

 3か月後、努力の成果をチェックするため医療機関を受診しました。残念ながら、血液データにはあまり改善が見られず、頸動脈エコーでは、Aさんの血管は問題なし、Bさんの血管はプラークができていて「動脈硬化高度」と判定されました。

 血液データが同じような値なのに、なぜこのような違いが起きるのでしょうか。
 また、2人の行った食事療法は正しかったのでしょうか。

血中コレステロールに影響を与える脂肪

 Aさんは、肉は減らしていましたが、アイスクリーム、チョコレート、クッキーは今までどおりに食べていました。洋菓子に使われるショートニングやチョコレートには、飽和脂肪酸が多く含まれています。また、多価不飽和脂肪酸には、2種類あり、n-3系のリノール酸(サフラワー油、ベニバナ油、コーン油、大豆油など)と、n-6系のαリノレン酸(エゴマ油、アマニ油、EPA、DHAなど)では、働きがまったく異なっています。n-3系はコレステロールの値は下げるものの酸化しやすく、結局は血管の炎症を増やして、動脈硬化を引き起こす、と言われています。
 n-6系は、中性脂肪やLDL-コレステロール値を下げ、血管の炎症を抑え、血液をサラサラな状態にして、動脈硬化を抑制します。つまり、多価不飽和脂肪酸のすべてがよいわけではなく、n-6系の脂肪酸を摂ることが大事なのです。n-6が多いのが魚。特にサバ、サンマなど青背の魚と呼ばれる魚に多く含まれます。
 ちなみに、人気のオリーブオイルは一価不飽和脂肪酸で、動脈硬化の原因となる過酸化脂質の発生を防いだり、LDL-コレステロール値を下げる働きのあるオレイン酸が豊富に含まれています。ただし、他の油脂(脂肪)と同じく1gあたり、約9kcalと高カロリーです。摂りすぎないように注意が必要です。
 LDL-コレステロールの中には様々な脂肪酸が含まれています。サバやサンマなど青背の魚を食べることで、EPAやDHAを多く含むLDL-コレステロールが作られます。LDL-コレステロールの値だけでなく、「質のよい」LDL-コレステロールにすることが大事です。

日本動脈硬化学会のガイドラインに見る男女の差

 標準的指導では、男女の差について記載はありません。では、日本動脈硬化学会のガイドラインで見るとどうなっているでしょうか。
(1)50代の女性は、血圧が高かろうとコレステロール値が高かろうとタバコを吸おうと、これからの10年間に冠動脈疾患で死亡するリスクはすべて0.5%未満(薄いブルーの□)です。ですからAさんは、図1のフローチャートでは、カテゴリーIという群に入り、管理目標はLDL-コレステロール値<160mg/dl、中性脂肪値<150mg/dl、HDL-コレステロール値50mg/dlとなっています。
薬物治療はLDL-コレステロール値≧180mg/dlと、以前のガイドラインに比べ、引き上げられました。
(2)Bさんは、男性ですので、図1のフローチャートでは、「10年間の冠動脈死亡率」リスクは0.5~1.0%(濃いブルー)となり、カテゴリーIIという群になり、管理目標はLDL-コレステロール<140mgと、女性よりも低い値に設定されています。もし血圧が140mmHgあるいは喫煙者だったら、さらにリスクは高まります。すでに血管壁にプラークがあることから、積極的な治療が望まれます。

(以上、資料提供:荒木葉子先生)

女性は月経があるうちは、脂質異常のリスクが低い

 血中コレステロール値で女性と男性に差がある一番大きな原因は、閉経までは女性ホルモンが女性の血管を守ってくれる、ということです。月経がある時期には動脈硬化を起こすような脂質異常が起こることはとても少ないことから、脂質異常が起こる年期が短くなることになります。一方、早期閉経の人は脂質異常のリスクが高まることになります。女性の場合、甲状腺疾患が多いので、脂質異常の際には、甲状腺機能をチェックすることも忘れてはなりません。

 女性は男性に比べて、本来は心血管疾患のリスクは低いのですが、喫煙者および受動喫煙者の女性、そして糖代謝異常のある女性では、心血管疾患のリスクが高くなるので要注意です。実際、Aさんと同じようなデータなのに、心筋梗塞をきたした女性は、夫がヘビースモーカーで、高度な受動喫煙者でした。

 また、今回のデータは「NIPPONDATA80」を元に作られており、当時の女性の冠動脈疾患死亡数は極めて少数だったため、女性のリスクが正確に反映されていない可能性があります。さらに、現在の日本人女性の食事、飲酒や喫煙などの嗜好、運動、月経、妊娠・出産などの傾向は、以前の女性たちとは大きく異なってきており、時代背景を反映したリスク管理が求められています。

 機会があれば、頸動脈エコーのような画像診断を受けること、血液データ以外の危険因子を総合的にとらえることを心がけてください。
 健康管理は「個別」の時代に入っています。「あなたにとって」よいことをぜひ実践なさってください。

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。