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更年期は脂質異常の始まり? 急にコレステロール値が悪化

更年期は脂質異常の始まり? 急にコレステロール値が悪化

女性ホルモンには、メタボや生活習慣病を防ぐ作用があるため、女性は更年期を迎えるころになると急に健診数値が悪化することがあります。閉経後も健康に過ごすために、この機会に新たな健康習慣を身につけましょう。
ここでは、Eさん(50代女性)の事例をもとに、更年期を迎える女性が気をつけたいポイントを紹介します。

更年期以降の脂質異常症に要注意

 月経周期が長くなり、閉経が近いと感じている50代前半のEさん。幸いにも生活に支障をきたすほどの更年期障害は起こらず、これまでどおりに過ごしています。しかし、特定健康診査を受けたところ、初めて「LDLコレステロール  160mg/dl、要治療」という判定を受けてしまいました。
 今までの健診では、どこも悪いところを指摘されてこなかったEさんですが、「LDLコレステロールって悪玉コレステロールのことよね。このままだと心筋梗塞になっちゃうのかしら」と怖くなってしまいました。


 女性の体は、一生を通じて卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲンやプロゲストロン)の影響を受けていますが、更年期を迎えるころから(おおむね40代後半以降)、卵巣の働きが低下するに従って女性ホルモンの分泌が急激に低下します。
 女性ホルモンには、血管をしなやかに保ち、脂質や糖の代謝を調整したり、内臓脂肪の燃焼を促進する働きがあります。そのため、40代ごろまではメタボリックシンドローム(メタボ)や脂質異常症、糖尿病、高血圧症、高尿酸血症、骨粗しょう症などを防いでくれていますが、女性ホルモンが減少する更年期近くになると、それらの病気のリスクが徐々に高まってきます。

脳卒中や心筋梗塞のリスク対策への包括的な指針が出された

 2015年4月に、日本内科学会を中心に動脈硬化性疾患に関連する領域の11学会と日本医学会・日本医師会が『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2015』を発表しました。
 脳卒中と心筋梗塞のリスクは似ているものもありますが、異なるものもあります。年齢・性別によってもリスクは異なります。今まで、各学会がそれぞれの立場で管理法を提示してきましたが、一人の人間がそれぞれの病気に別々にリスク対策をするわけにはいきませんので、包括的な指針が出されたのは、とてもよかったと思います。

個人のリスクごとに脂質異常症の管理目標が定められている

 脂質異常症の管理目標は、性年齢、リスク因子の数や種類によってカテゴリーに分けられ、それぞれに目標値が決められています。


  • カテゴリーI(低リスク): LDLコレステロール(以下LDL-C) 160mg/dl未満
  • カテゴリーII(中リスク): LDL-C 140mg/dl未満
  • カテゴリーIII(高リスク): LDL-C 120mg/dl未満


リスク因子は以下の5つです。

  • ①喫煙している
  • ②高血圧(診察室で140/90mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上)
  • ③低HDLコレステロール(40mg/dl未満)
  • ④家族歴(家族内に脳心血管疾患が多い場合など)
  • ⑤耐糖能異常がある

ただし、糖尿病、慢性腎疾患、脳梗塞、末梢動脈疾患の既往や合併がある場合は、性年齢にかかわらず、カテゴリーIII(高リスク)になります。


 

リスク因子

40~59歳

60~74歳

男性

1個

カテゴリーII

カテゴリーIII

2個以上

カテゴリーIII

カテゴリーIII

女性

1個

カテゴリーI

カテゴリーII

2個以上

カテゴリーII

カテゴリーIII

『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2015』より荒木葉子先生作成


では、50代のEさんがどのようにすればよいのかをみていきましょう。

  • リスク因子をもっていない場合:LDL-Cの値そのものはあまり気にしなくてもよいことになります。この管理チャートにはリスク因子ゼロの対応の記載がなく、明確なものはありませんが、LDL-Cが180mg/dl以上になると頸動脈の内膜肥厚やプラークが増えてくる、という報告があります。
  • リスク因子をもっている場合:リスクが1つならLDL-C 160mg/dl未満、2つ以上の場合は140mg/dl未満、糖尿病や慢性腎疾患、脳梗塞、末梢動脈疾患があれば120mg/dl未満を目標とすることになります。糖尿病の場合は、低ければ低いほどよい、というデータさえあります。

 家族歴に関しては、もし家族性の脂質異常症があった場合、重篤度に応じてカテゴリーは異なると思われますし、もっと早期から治療する必要があるかもしれません。なぜかというと、リスクがどのくらい長く続いていたのかという時間経過も、動脈硬化にとってとても大事だと考えられているからです。
 女性が男性よりもリスク因子があってもカテゴリーが低いのは、女性ホルモンによって50歳くらいまで動脈硬化から守られているためです。しかし、両側の卵巣摘出をした場合、若いときに閉経になった場合、たばこを若いときから吸っていた場合、高血圧や腎障害が若いときからある場合は、リスクの期間によって管理目標値は変わってきます。

脂質管理はバランスが大事

 卵を食べるとコレステロールが高くなる…と言われ続けていましたが、最近では食品中に含まれるコレステロール量によって、体内のコレステロール値が大きく変わることはないとわかり、2015年版の「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)からは、摂取基準が撤廃されました。米国ではトランス脂肪酸の取り過ぎが問題になっていますが、日本は飽和脂肪酸の取り過ぎのほうが問題です。「◯◯油を摂って、◯◯油を摂らない」というよりも、バランスのよい脂質摂取を心がけましょう。
 また、脂質だけを制限しても、炭水化物をたくさん取れば中性脂肪が高くなり、動脈硬化を起こしやすい脂質も増えてきます。ビタミンやミネラルが欠乏すると栄養素の代謝がうまくいかなくなります。昔から長寿のもとと言われていた大豆製品は、女性ホルモン類似作用もあり、更年期女性の強い味方です。こうして考えると、よく言われる「バランス」が大事、ということに行きつきます。
 また、有酸素運動と無酸素運動を交互に行うことで脂肪の燃焼が効率的に行われることもわかっています。
更年期以降は、これまで守り神だった女性ホルモンが減ってくるぶん、そのように意識的にがんばる必要が出てきます。

「自分」の健康管理をしよう

 50代でも老けている人もいれば、80代でも溌剌(はつらつ)としている人もいます。健康長寿は喜ばしいことですが、「老い」は必ずしもよいことばかりではありません。単に心血管疾患を予防するということだけでなく、老いのリスクをどのように自分で引き受けるかも、考えていく時代に入ったと思います。
 年齢を重ねるごとに、「自分」のリスクを知り、今後どのように生きたいかを考えて、行動することが大事になってくるでしょう。

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。