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食事制限だけでは、筋肉が減って「サルコペニア肥満」に

食事制限だけでは、筋肉が減って「サルコペニア肥満」に

 ダイエットのために食事制限をしている人は多いと思いますが、運動せず食事制限を続けていると、かえって筋肉量を減らしてしまい、生活習慣病や運動機能低下のリスクが高まるおそれがあります。
 ここでは、Gさん(40代女性)の事例をもとに、「サルコペニア肥満」の危険性を解説します

食事制限で体重は落ちてきたのに、体脂肪が減ってない

 2年前に出産し、昨年育児休暇から職場復帰したGさん(40代女性)。妊娠時に増えた体重がいつか落ちるだろうと思っていたら、それどころか今まで見たことのない体重に増えていました。
 慌てて食事制限を始めると、若いころのように一気には減らないものの、徐々に体重が落ちてきて、ひと安心。しかし、体重が減少した割には、体脂肪率があまり減っていないのが気になっています。子育てと仕事に忙しく、なかなか運動する時間がとれません。

加齢とともに筋肉が減り体脂肪が増える。運動をしないと「サルコペニア肥満」に

 運動習慣のない人では、20代から30代以降、筋肉量が少しずつ減少していきます。通常、筋肉はエネルギーをたくさん消費しますが、筋肉量が少ないと、消費されずに余ったエネルギーが脂肪に変わり、体にたまりやすくなります。
 Gさんのような食事制限中心のダイエットでは、筋肉量が減っていき、体脂肪がたまりやすくなっていくので逆効果に。いずれは、筋肉の減少と肥満とをあわせもった「サルコペニア肥満」になりかねません。

 「サルコペニア」は、加齢に伴う筋肉量減少のことで、高齢者の約1割が陥っているといわれます。体力の低下や身体機能の低下により、日常生活動作に支障をきたし(ロコモティブシンドローム、運動器症候群)、転倒骨折したり寝たきりとなって、介護を必要とする危険が高くなります。
 一方、肥満はメタボ(メタボリックシンドローム、内臓脂肪症候群)を引き起こし、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中などを発症しやすくなることは言うまでもありません。
 サルコペニア肥満では、この両方が同時に起きているため、要介護のリスクと生活習慣病のリスクのどちらも高い危険な状態といえます。
実際に、中高齢者6,421人を対象として高血圧のリスクと低体力のリスクを調べた研究では、サルコペニア肥満のある人は、正常な人に比べて高血圧のリスクが男性で1.7倍、女性では2.3倍高く、同様に低体力のリスクが男性で3.0倍、女性では5.9倍も高くなっていました。いずれもサルコペニアのみの人、肥満のみの人よりもリスクが高くなっており、あわせもつことでそれぞれのリスクが上昇していることがうかがえます。
 日本では、「サルコペニア肥満」はまだ研究段階で、統一された見解はありませんが、日本のサルコペニア肥満研究の第一人者である筑波大学の久野譜也教授は、以下の数値を提起しています。

  • 筋肉の割合が男性で27.3%、女性で22%に満たない
  • 体格指数のBMIが25以上(BMI=体格指数、体重kg÷身長m÷身長mで算出)

以上の2つの条件を満たした場合、サルコペニア肥満と判定する。

運動で筋肉を取り戻し、良質のたんぱく質をとることが重要

 サルコペニア肥満の予防のためには、筋肉トレーニングを中心とした運動を継続的に行うことが大切です。特に使わないと衰えやすいふくらはぎと太ももの筋肉を鍛えるとよいでしょう。
 ロコモ予防運動の「開眼片脚立ち」と「スクワット」なら、運動習慣のない人や忙しい人も、家事や仕事の簡単にできるのでおすすめです(「若いうちからのロコトレで、元気な足腰を保とう」参照)。
 さらに、意識してきびきびと家事を行ったり、できるだけ徒歩で移動するなどして、活動量を増やすようにしましょう。
 また、Gさんのように食事制限と組み合わせてダイエットをする場合には、良質のたんぱく質をしっかりととることが欠かせません。たんぱく質は、筋肉を維持するには毎日体重1kg当たり1g、筋肉を増やすためには1.2g必要と言われています。つまり体重50kgの人なら、毎日50gから60gのたんぱく質をとることが必要になります。牛ひれ肉なら100gで19.1g、木綿豆腐100gで6.6g、卵1個で6.4gです。運動の直後にたんぱく質をとることが効果的です。
 また、最近ビタミンDに筋力増強効果があることがわかってきました。ビタミンDは1日当たり5~5.5μg(ナノグラム)必要と言われています。卵1個で0.9μg、さけ1切れで25.6μg、生しいたけ2枚で0.8μgなどです。
 いつもの食事に、肉・魚や魚介類、豆製品、乳製品や卵を少し加えるなど工夫してみましょう。

【参考文献】
Kim J,et al.; Sarcopenic-obesity is associated with physical fitness independently physical activity. Med Sci Sports Exerc,44: 920-920,2012

荒木 葉子 先生

監修者 荒木 葉子 先生 (産業医・内科医 荒木労働衛生コンサルタント事務所所長)
慶應義塾大学医学部卒業後、内科・血液内科専攻。カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学。報知新聞社産業医、NTT東日本東京健康管理センタ所長を経て、現在荒木労働衛生コンサルタント事務所所長。内科専門医・産業医・労働衛生コンサルタント。企業の労働衛生と半蔵門病院で内科診療を行う。主な著書に『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』(医学書院)、『働く女性たちのウェルネスブック』(慶應義塾大学出版会)など。