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運動とがん

運動とがん

 運動やスポーツ、仕事や日常生活で、体を動かす量が多い人は、少ない人に比べて、がんにかかるリスクが低いことがわかりました。ただし、激しい運動やスポーツを習慣化すると、がんの発生を誘発する活性酸素やフリーラジカルの産生を促進する可能性もあります。適度な運動を継続することが、がん予防のコツといえます。

体を動かす量が多いほど、がんにかかるリスクが低下する

 運動習慣は、肥満、高血糖(糖尿病)、高血圧、脂質異常症(メタボリックシンドローム要因)や、その他の生活習慣病の改善に有効であることは、よく知られています。では、運動習慣は、がん予防にも効果があるのでしょうか。
 国立がん研究センターの研究班による多目的コホート研究では、45~74歳までの男女約8万人を対象に身体活動量について調べ、1995年から2004年まで追跡調査し、がんの発生との関連を分析しました。
「身体活動」とは、運動・スポーツ(体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に行うもの)と、生活活動(運動・スポーツ以外の動きで、労働や日常生活での動き全般)の総称です。
 調査では、1日の身体活動量を、筋肉労働や激しい運動・スポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、眠っている時間に分け、後述する「メッツ(METs)」と「動いた時間」を掛け算して、その合計を1日当たりの平均的な身体活動量とし、程度によって4つのグループに分類しました。
 この分析の結果、がん全体では身体活動量の最小グループの罹患リスクを1とすると、身体活動量が最大グループでは男性で0.87、女性で0.84。男女ともに身体活動量が多いほど、がんの発生リスクが低いことがわかりました。

 がんの種類別でみると、身体活動量の多いプループのほうが、男性では結腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクが低く、女性では胃がんのリスクが低いことがわかりました。特に結腸がんについては、男性のがん発生リスクに大きな差がみられ、身体活動量の最小グループを1とすると、最大グループでは0.58(女性は0.82)と、がん発生リスクが40%以上も低くなっていました。
 国際的な評価では、WCRF(世界がん研究基金)とAICR(米国がん研究財団)が、生活習慣とがんの発生の評価報告書『食物・栄養・身体活動とがん予防』を発表しており、2007年の改定版で、運動は結腸がんのリスクを、「確実に」下げるという評価を出しています。

体を動かすことによるインスリン抵抗性の改善、免疫機能改善が、発がんリスクの低下に

 運動やスポーツに生活活動を含めた身体活動量が多いほど、がん発生リスクが下がる理由については、明確なことはわかっていません。現時点で考えられていることは、体を活発に動かすことで、インスリン抵抗性(インスリンの効き具合)が改善されることが、がん予防のカギになっているようです。

  • 運動により(インスリンの効き具合が良くなり)、腫瘍の増殖作用や、アポトーシス(異常細胞の自滅)の抑制作用をするインスリンやインスリン様成長因子の血液中の放出量が少なくなることにより、発がんリスクが下がる。
    そのほかに、
  • 肥満は、インスリ抵抗性や全身の炎症状態を引き起こし、発がんリスクを高める。運動によって肥満を予防したり改善したりすることで、発がんリスクが下がる。
  • 脂肪組織は、男性ホルモンや女性ホルモンを作り出している。性ホルモンに関係したがんは、性ホルモンの分泌が多いほど発がんリスクを高める。運動によって脂肪組織を減らすことで、発がんリスクが下がる。
  • 体を活発に動かすことで、免疫系で働いているマクロファージやナチュラルキラー細胞、好中球、サイトカインなどがコントロールされ、免疫機能が改善される。
  • 適度な運動量により、身体に悪影響を及ぼすフリーラジカル(不対電子を持っている不安定な原子や分子)の産生が抑制される。
    なども、考えられています。

がん予防のための運動は、「適度」を心がけるように

 がん予防のための運動は、「適度な運動」がすすめられます。激しい運動を習慣化すると、体内の活性酸素やフリーラジカルの産生が促進され、それらがDNA(遺伝子)を傷つけて、がん化を促す可能性があるといわれています。
 適度な運動を続けるには、「運動やスポーツ」と「日常生活でのまめな動き」を組み合わせることがコツです。厚生労働省が策定した「健康づくりのための運動指針2006」では、がんを含めた生活習慣病の予防のために、身体活動(運動・スポーツ+生活活動)として週に23「エクササイズ」(後述)以上を行い、そのうち4「エクササイズ」以上は活発な運動を行うことを目標に指導しています。
 これまで運動やスポーツの習慣がなかった人が、急に始めるとけがをしたり、長続きしなかったりします。まずは、軽い運動や活動から始めて、自分のライフスタイルに合った時間や種類を選びながら、無理なく継続できるようにしましょう。

  • 身体活動の強さの単位 「メッツ」(METs)
    座って安静にしている状態を「1メッツ」とし、その何倍に相当するかで、身体活動の強さを表します。
    ・運動・スポーツ・・・軽い筋トレ=3.0、自宅での軽い体操=3.5、野球=5.0、エアロビクス=6.0、ジョギング=7.0など
    ・生活活動・・・普通の徒歩=3.0、モップかけ・掃除機かけ=3.5、床磨き・風呂掃除3.8、速歩=4.0、階段を上がる=8.0など
  • 身体活動の量の単位 「エクササイズ」(Ex)
    「メッツ」に実施時間を掛けた数値が、身体活動の量「エクササイズ」です。
    (例)30分普通に歩いたときの身体活動量・・・3メッツ×0.5(時間)=1.5エクササイズ(メッツ・時)
  • 「エクササイズ」を使ってエネルギー消費量を簡易計算可能!
    エネルギー消費量(kcal)=1.05×体重(kg)×身体活動量(エクササイズ)
    (例)体重80kgの人が30分普通に歩いたとき・・・1.05×80(kg)×1.5=126kal

津金 昌一郎先生

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。