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肥満・やせすぎとがん

肥満・やせすぎとがん

 欧米人ほど肥満の割合が高くない日本人では、今のところ肥満とがん発生との関連は、一部のがんを除いて、明確ではありません。しかし、食事行動や日常生活が欧米化し、増えているがんの種類も欧米化している傾向を考えると、肥満予防は大切です。また、日本人に多いやせすぎは、がん発生リスクを高めることがわかっています。適正な体重を維持するために、食事と運動の両面から体重コントロールを心がけましょう。

世界的な評価では、やはり「肥満」はがん発生のリスク

 WCRF(世界がん研究基金)とAICR(米国がん研究財団)の2007年報告書では、肥満は食道腺がん、大腸がん、腎臓がん、乳がん(閉経後)、子宮体がんをはじめ、多くのがんのリスクになるのは確実と評価しています。
 その理由として、以下のようなことが挙げられています。
(1)脂肪組織から放出される、特に閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)が子宮体がんや乳がんなどのリスクを高めること
(2)インスリン抵抗性(インスリンの働きを弱める作用)により、高インスリン血症が持続し、さらに遊離型のインスリン様成長因子が増え、その状態が細胞増殖の促進や、細胞死の抑制を招き、結腸がんなどのリスクを上昇させること
(3)肥満により逆流性食道炎のリスクが高まり、その状態が食道腺がんの危険性を高めること(ただし、日本人の食道がんの9割以上が扁平上皮がん)

日本人はBMI21未満と30以上でがん発生リスクが高い

 国立がん研究センターの研究班による多目的コホート研究で、男女9万人を対象にし、約10年間追跡調査をし、がんの発生との関連を分析しました。
 【体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)】で算出される数値をBMI(体格指数)といいます。前述の多目的コホート研究の結果、男性では、BMI「23から24.9のグループ」と比較して、「21未満のやせているグループ」と「30以上の非常に太っているグループ」で、がん全体の発生リスクが高いことがわかりました。女性では、がん全体からみるとBMIとの関連はみられませんでした。

 日本人の場合は、欧米人ほど肥満の割合が高くなく、肥満とがん発生との関連はあまり明確ではありません。実際に、研究対象者にはBMI30以上の肥満者が2%から3%しかいませんでした。
 ただし、食事行動や日常生活が欧米化し、身長・体重ともに伸びて体格もよくなり、日本で増えてきているがんの種類が欧米化してきている傾向を考えると、また、糖尿病予防を考えると、やはり肥満予防は大切です。

BMIと部位別のがん発生リスクの関連をみると……

 BMIと部位別のがん発生リスクについては、以下のような結果が示されました。

  • 大腸がん
    男性ではBMIが27を超えると、BMI25未満の人に比べて大腸がん発生のリスクが高まることがわかりました。もし、BMI25以上の人たちが25未満になれば、大腸がんの約6.7%が予防可能になります。
  • 前立腺がん
    男性ではBMIが27を超えると、BMI25未満の人に比べて大腸がん発生のリスクが高まることがわかりました。もし、BMI25以上の人たちが25未満になれば、大腸がんの約6.7%が予防可能になります。
  • 乳がん
    閉経後で肥満の人は、脂肪細胞から女性ホルモンであるエストロゲンが産生されるので、乳がんリスクを高めると考えられています。多目的コホート研究でも、BMIが「30以上のグループ」では、「19未満のグループ」よりも、乳がん発生のリスクが2.3倍高い結果となりました。閉経前の人では、肥満との関連はみられませんでした。
    一方、身長が高いと乳がん発生のリスクが高いことがわかりました。この結果は欧米の研究とも一致しています。身長の高い人は、成長期の栄養状態が良好だった傾向にあり、その結果、初経が早く始まりやすく、女性ホルモンに早くからさらされるからだと考えられます。

日本人に多い、やせすぎにも注意

 がんを含め、生活習慣病のリスクとして肥満はよく知られ、肥満予防がすすめられていますが、この多目的コホート研究で特に問題になったのは、むしろやせていることでした。BMI21未満のやせグループでは、BMI23から24.9のグループに比べて、がんの発生リスクが14%高くなり、BMI19未満ではリスクが29%も高まるという結果でした。
 がんになったからやせたのではないかという懸念を解決するために、調査開始後、数年以内にがんになった人を除いて分析しても、同様の結果が得られました。
 日本人に多くみられるやせすぎは、発がんリスクを高めることがわかったのです。これらの結果からは、特に中年期以降の人は、男性ではBMIを21以上27未満を、女性では19以上25未満を維持することがすすめられます。
 肥満の人もやせすぎの人も、食事と運動の両面から体重コントロールすることが大切です。適度な量とバランスのよい食事を心がけ、運動習慣をもつようにしましょう。手ごろな運動としてはウオーキングがおすすめです。運動する機会や時間を作りにくい人は、一駅分歩くとか、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使うなど、日常の生活活動量を増やすことに努めるとよいでしょう。

津金 昌一郎先生

監修者 津金 昌一郎 先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究助成金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞、2014年高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞。一般向けの主な書著に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学、山形大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。