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ウイルス・細菌や、環境汚染とがん

ウイルス・細菌や、環境汚染とがん

欧米に比べて日本では、肝がん、胃がん、子宮頸がんなどをはじめ、ウイルスや細菌の持続感染が原因となって発生するがんが多いのが特徴です。また、環境汚染物質にさらされることによって、発がんが促進されることもわかっています。前回までは主に生活習慣の改善が、がん予防に有効であることを述べましたが、同時に、ウイルスや細菌、環境汚染による発がん物質から、身を守ることも大切です。

日本では、ウイルスや細菌の感染によるがんが多い

ウイルスや細菌が原因となるがんには、B型・C型肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんなどが知られ、がん全体の4分の1を、これら3種のがんで占めています。
ほかに、EBウイルスによる悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、ビルハルツ住血吸虫による膀胱がん、ヒトTリンパ向性ウイルスによる白血病や悪性リンパ腫などがあります。

日本では、ウイルスや細菌の持続感染によるがんの割合が高いことがわかっています。2003年にIARC(国際がん研究機関)によって発表されたデータでは、ウイルス・細菌の慢性感染に起因するがんの割合は、世界平均で約18%、発展途上国の平均で約23%、欧米などの先進国の平均で約9%という結果がみられるなか、日本では約20%で、先進国の中では突出した高さでした。

ヘリコバクター・ピロリと胃がん

胃がんの原因とされるヘリコバクター・ピロリ菌は、日本人の50歳以上の約80%が感染していると推定されています。その世代に多い理由は、衛生管理が行き届いていない時代に、水(井戸水など消毒されていない水)や食べ物からピロリ菌が経口感染した人が多かったこと、加えてかつての日本の食習慣だった高塩分の食事によって荒らされた胃粘膜に、ピロリ菌がすみつきやすかったと考えられます。

ピロリ菌は、血液検査で抗体価を調べることで測定します。ピロリ菌の抗体が検出された陽性の人は、検出されなかった陰性の人に比べ、胃がんになるリスクは約10倍という研究結果もあります。ただし、実際に胃がんになった人を調べると99%の人が陽性でしたが、胃がんでない人でも90%は陽性でした。
これは、胃がんの主な原因はピロリ菌感染ですが、感染した人が必ずしも胃がんになるとは限らず、ピロリ菌感染者の一部が、胃がんになるということを示しています。

肝炎ウイルスと肝がん

日本における肝がんの90%以上は、肝炎ウイルスが原因と考えられています。肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、E型などがあります。B型やC型の中には、肝臓で持続感染し慢性肝炎となるものがあり、20~30年かけて肝障害が進行し、肝硬変や肝がんを発症することがあります。
B型もC型も血液によって感染するもので、かつて医療行為として行われていた注射の使い回わし、感染した血液によって作られた血液製剤の使用などが、日本に感染者が多い理由と考えられています。
検査で肝炎ウイルス感染がわかった場合、ウイルスを駆除することで肝炎の発症を予防することが可能です。また、B型肝炎ウイルスは、ワクチン接種で感染を予防することができます。

ヒトパピローマウイルスと子宮頸がん

日本では、20歳代の子宮頸がんが増加しています。子宮頸がんのほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因であることがわかっています。ヒトパピローマウイルスはありふれたウイルスで、性交渉をもったことのある大多数の女性は、このウイルスに少なくとも一度は感染したことがあるとされています。
ヒトパピローマウイルスは100種類以上あり、がんを発生させるリスクの高いタイプは、16型、18型などほんの数種類です。
高リスクのウイルス感染者が、すべて子宮頸がんを発症するわけではなく、感染者のごく一部が持続感染し、さらにそのなかのごく一部が子宮頸がんを発症します。

子宮頸がんはワクチン接種により、予防が可能になりました。ただし、ワクチンは高リスク型の数種類のヒトパピローマウイルスにしか対応していないため、ワクチン接種をしたからといって、ヒトパピローマウイルスの感染を完全に予防できる保証はありません。また、すでに感染している人の場合、子宮頸がんの発症を予防する効果もありません。
子宮頸がんの予防や早期発見には、ワクチンの接種と定期検診を組み合わせることが有効です。

アスベストなど環境汚染物質とがん

アスベスト鉱山で働く人やアスベストを扱う職種の人に、悪性中皮腫(胸部に発生するまれながん)や肺がんが発生しやすいことがわかっています。本人だけでなく、その家族やアスベストの発生源の周辺住民にも影響します。
アスベストは石綿とも呼ばれ、断熱材やフィルター材、繊維などの材料として、学校などの公共施設を中心に利用されてきました。アスベストにさらされてがんの発生まで、約30年の潜伏期間があるため、アスベスト対策が遅れた日本では今後、アスベストによる悪性中皮腫や肺がんの発症のピークを迎えることが予測されています。また、喫煙が加わることで、アスベストによる肺がん発生リスクが増強することがわかっています。
アスベストのほかにも、顔料製造に使用するベンジジン(や2-ナフチルアミン)と膀胱がん、燃料として使用するベンゼンと白血病、カドミウムと肺がん、コールタールと肺がんや皮膚がんなどの関係が指摘されています。これらのほかにも、大気汚染や飲料水の汚染など、特定の環境汚染物質が発がんを促すこともあると考えられています。
過去の環境や職業が現在の発がんリスクに、または現在の環境や職業が将来の発がんリスクになることを考えれば、社会全体として検討していく課題であるといえます。

放射線とがん

自然発生や、職場・医療などでの人為発生により、(電離)放射線に被ばくすることがあります。下記に主な放射線の種類と関連するがんを挙げてみましょう(参照:英国医学誌『Lancet Oncology 2009;10:751-752』)。

核施設の事故

  • 「放射性ヨウ素<I‐131など>」による甲状腺がん…発生源の周辺居住者(特に子どもや若年層に多い)。
  • 「核分裂生成物<Sr‐90など>」により、固形がん(血液のがん以外のがん)や白血病…発生源の周辺住民(一般の人)。

プルトニウム生成時

  • 「プルトニウム」による肺がんや肝臓がん、骨のがん…作業者。

鉱山、地下室(土壌)

  • 「ラドン222とその崩壊産物」による肺がん…鉱山労働者や発生源の居住者。

原爆、医療

  • 「X線」や「γ線」による唾液腺・食道・胃・結腸・肺・骨・皮膚・乳房・膀胱・脳脊髄・白血病(CLL以外)・甲状腺・腎臓の各がん、胎児被ばくでは複数部位のがん…原爆被ばく者、医療被ばく者、胎児被ばく。

広島・長崎の被爆者約5万人を対象とした追跡調査(1950~1990年)で、がん死亡4,863人のうち、5ミリシーベルト(mSv)以上(爆心地より2.5kmで被爆した場合とほぼ同等の線量、平均線量は約200mSv)の被爆が原因と考えられる割合は、9%程度(このうち白血病死亡176人については51%)でした。そして、被爆によるリスクは、その線量に従って高くなる関係が認められており、1000mSvの放射線被爆により、平均してがんの確率が約1.5倍に増加します。線形モデルからは、100mSvで約1.05倍、10mSvで約1.005倍と推定されますが、統計学的には、約150mSv以下では、がんのリスクの増加は観察されていません(参照:財団法人放射線影響研究所)。

東日本大震災後の原子力発電所の事故で、放射線に対する国民の関心が高まっています。過剰に恐れすぎることもなく、安心しすぎることもなく、正しい情報・信憑性の高い情報を得て、対応することが大切です。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。