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食物繊維で大腸がんを防ぐ

食物繊維で大腸がんを防ぐ

 これまでの研究の結果では、食物繊維の摂取量が一定量より不足すると大腸がんのリスクが高まることが示されています。一方、食物繊維をたくさん摂取したからといって、その量に比例して発がんリスクが低下するわけではないことも示されています。食物繊維は、がん予防だけでなく、肥満予防や多くの生活習慣病予防に効果があるとされる栄養素。不足しないようにとることが大切です。

大腸がん予防には、食物繊維の摂取量は1日に10g程度でいい

 野菜、果物、穀類、海藻類に多く含まれる食物繊維は、食べても消化されずに便として排出されるため、長年栄養素としては扱われませんでした。しかし、近年のさまざまな研究により、有害な物質を体外に排出する働きなどが認められ、第5の栄養素として注目されています。
 食物繊維研究のさきがけは、英国人医師のバーキット。1970年代初め、アフリカ人と英国人で、便の量や通過時間を比べた研究を発表しました。アフリカ人の便の量は英国人より数倍多かったが、通過時間は短く、排便も楽だったというものでした。このことからバーキットは、英国人に比べて、アフリカ人では大腸がんに罹患する人が少ないのは、穀物を中心とした食物繊維を豊富に摂取しているためであろうと考え、食物繊維が大腸がんのリスクを下げるのではないかと期待されました。
 そして、大腸がんの患者さんとがんになっていない対照について、過去の食物繊維の摂取量を比較する研究が行われ、確かに、大腸がんの患者さんの摂取量が少ないことを示すことが報告されるようになりました。
 しかし、その後、食事に関する調査を行った後に、長期に追跡し、大腸がんの罹患率を比較する大規模なコホート研究が行われ、結果は二転三転します。欧米で行われた1999年からの追跡調査の結果では、食物繊維には大腸がんを防ぐ効果は認められませんでした。その後、2003年のヨーロッパ8か国の大規模コホート研究では、食物繊維の摂取量が多いほど、大腸がんのリスクも低下し、最大で25%抑えられたと報告されました。
 2006年に発表された欧米の17のコホート研究のデータを再検討し、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクとの関連を解析した研究では、食物繊維の摂取量が1日10g未満の場合は、食物繊維の摂取量が増えることで大腸がんのリスクは低下するが、10g以上では大腸がんの予防効果を認めないということが示されました。これは、食物繊維は不足していると大腸がんのリスクになるが、10gをクリアしていれば、摂取量をそれ以上増やしても、大腸がんのリスク低下に影響は認められないということです。日本で行われたコホート研究においても、同様の結果が得られています。

【参照】国立がん研究センター > がん予防多目的コホート研究 >
●食物繊維摂取と大腸がん罹患との関連について

生活習慣病予防を含めると、成人の男性で19g以上・女性で17g以上が目標

 ただし、食物繊維はがん以外の病気の予防効果も認められており、10gより多い量の摂取をすすめられています。日本人の食事摂取基準(2010年版)では、食物繊維の摂取目標量は、18歳以上では1日あたり男性19g以上、女性17g以上とされています。
 では、実際にはどれくらい摂取しているのでしょうか。「平成21年国民健康・栄養調査結果の概要」(厚生労働省)によると、日本人の食物繊維の摂取量平均は、成人男性15.1g、成人女性14.7gで、男女ともに目標量に達していません。
 食物繊維は、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進して便通を整えたり、有害物質を包み込んで排出したり、血液中のコレステロールや糖質の吸収を遅らせる効果のほか、乳酸菌など腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整える作用なども認められています。その結果として、メタボリックシンドロームを含む生活習慣病の予防や改善に効果があると期待されています。

野菜や果物などに多く、水溶性と不溶性に大別される

 食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に大別され、効果が異なります。どちらの効果も得られるようにするには、毎日の食事で水溶性・不溶性の食物繊維の多い食品を組み合わせてとるよう心がけるとよいでしょう。

  • 水溶性食物繊維
    野菜、果物、海藻類、きのこ類に多く含まれ、加熱すると「ヌルヌル」とした食感の成分が表面に出てきます。高血糖・脂質異常症・高血圧などの予防、がん予防、便秘予防などが期待されます。
  • 不溶性食物繊維
    穀物、野菜、豆類に多く含まれ、「モサモサ」とした食感の成分です。便秘の予防・解消、痔の予防、血液中のコレステロールの排出作用、大腸がん予防、食べすぎの防止(肥満予防)、咀嚼(そしゃく)力の強化、虫歯予防などが期待されます。

食物繊維を多く含む食品

乾物 干ししいたけ、切り干し大根など
豆類 ひよこ豆、小豆、そら豆、いんげん豆、大豆(納豆)など
野菜 ごぼう、ブロッコリー、おくら、たけのこ、にんじん、かぼちゃなど
いも類 さつまいも、里いも、こんにゃくなど
きのこ類 エリンギ、えのきたけ、しめじ、しいたけなど
海藻類 ひじき、こんぶ、わかめ、かんてんなど
穀類 ライ麦、大麦、そば、玄米、オートミールなど
果物 干し柿、プルーン、ゆずの皮、アボカド、きんかんなど

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。