文字サイズ

メタボリックシンドロームは、がんのリスク?

メタボリックシンドロームは、がんのリスク?

 動脈硬化や心疾患、脳血管疾患、糖尿病合併症などの要因となるメタボリックシンドローム。その関連要因である高血糖・脂質異常・高血圧が、がんの発生にもかかわっているかを10年間にわたり追跡した調査があります。その結果をご紹介しましょう。

内臓脂肪の蓄積に着目したメタボリックシンドローム

 「メタボリックシンドローム」という言葉が、だいぶ普及してきました。内臓の周りに脂肪が蓄積した「内臓脂肪型肥満」と、それがきっかけで生じる糖代謝・脂質代謝・血圧の異常が重なった状態をメタボリックシンドローム(日本語訳は、内臓脂肪症候群または代謝症候群)といいます。
 判定基準は、腹囲(おへその位置で)が男性で85cm以上、女性では90cm以上の人が、次の3項目のうち2項目に該当する場合です。

  • 血糖(*1)⇒空腹時血糖:110mg/dl以上 または HbA1c(ヘモグロビンA1c)が5.5以上
  • 脂質⇒中性脂肪:150mg/dl以上 または HDLコレステロールが40mg/dl以下
  • 血圧⇒収縮期血圧:130mmHg以上 または 拡張期収縮が85mmHg以上

 メタボリックシンドロームは、従来の生活習慣病のより手前の段階からとらえた概念で、広い意味での生活習慣病といえます。メタボリックシンドロームを放置すれば、動脈硬化を促進し、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血)、心血管疾患(心筋梗塞など)、糖尿病合併症(人工透析、失明など)の発症リスクを高める要因となります。
 国では2008年度(平成20年度)から、メタボリックシンドロームの予防・改善を目的に、40歳以上74歳までを対象に、「特定健康診査(特定健診)」を実施し、健診結果に応じて「特定保健指導」と呼ばれる、専門家による個人の生活習慣の改善支援が行われています。

(*1)特定保健指導の対象者を選定する際の血糖値基準では、空腹時血糖100mg/dl以上、HbA1c5.2以上となります。

メタボリックシンドローム関連因子は、男性では肝がん、女性では膵臓がんのリスク増加

 がんの多くも生活習慣病の一つです。メタボリックシンドロームが、がん発症リスクと関係があるかも興味深いところです。
 国立がん研究センターが行っている多目的コホート研究では、健康診査(健診)の結果をもとに、メタボリックシンドローム関連要因を取り上げ、その集積のあるグループとないグループに分け、がん発症との関連を10年間にわたって追跡調査しました。

 調査対象者のうち、メタボリックシンドローム関連要因の割合は、男性では血圧高値60%、高血糖23%、低HDLコレステロール16%、高中性脂肪30%、肥満30%でした。女性では血圧高値52%、高血糖23%、低HDLコレステロール28%、高中性脂肪21%、肥満30%でした(*2)
 追跡調査の結果では、メタボリックシンドローム関連要因があっても、がん全体の発生リスクが有意に増加したとはいえませんでした。また、血圧、血糖など個別要因ごとに見ても、がん発生のリスクとの関係は示されませんでした。

 ただ、メタボリックシンドローム(男性17%、女性14%)と、がんの部位別発生リスクの関係を調べると、男性では肝がん、女性では膵臓がんのリスクの増加が見られました。メタボリックシンドロームが、特定のがんの発生と関連がある可能性を示しつつも、がん全体のリスクを高めるとまではいえない結果です。

 とはいえ、前述したように動脈硬化、脳血管疾患、心血管疾患、糖尿病合併症の発症リスクを高めることから、メタボリックシンドロームの予防・改善は重要です。食生活や運動などを中心とした生活習慣を見直し、好ましくない習慣は改善することが大切です。

(*2)血圧高値:収縮期血圧130mmHg以下/または拡張期血圧85mmHg以上または降圧剤服用中
     高血糖:空腹時血糖100mg/dl以上/または空腹時以外140mg/dl以上
     低HDLコレステロール:男性40mg/dl未満、女性50mg/dl未満
     高中性脂肪:中性脂肪150mg/dl以上
     肥満:BMI25以上

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。