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禁煙で、肺がん予防

禁煙で、肺がん予防

 肺がんの最大の原因は、喫煙習慣です。たばこに含まれる多くの有害物質が発がんリスクを高めていることは数多くの研究で一致した見解です。喫煙者本人だけでなく、受動喫煙が発がんリスクを高めることも要注意です。5月31日は世界禁煙デー。喫煙者はこの機会に完全禁煙を!

直接喫煙だけでなく、受動喫煙も健康被害を及ぼす

 5月31日は世界禁煙デー。WHOは喫煙および受動喫煙による健康被害などについての普及啓発に加え、今年のテーマとして掲げた「たばこ産業の干渉を阻止しよう」についても積極的な普及啓発を行うこととしています。
 日本では、5月31日から6月6日までの1週間を「禁煙週間」とし、今年は「命を守る政策を!」をテーマに、普及啓発活動が展開される予定です。

 肺がんの最大の原因は喫煙です。たばこの煙には、約4000種類の化学物質が含まれています。そのうち300~400の物質を分析した結果だけでも、ベンツピレン、芳香族アミン、ニトロソノルニコチン、ヒ素、カドニウム、メタノールなどをはじめ、約60種類の発がん促進物質が含まれていることがわかっています。
 喫煙によって肺がんのリスクが上昇することは、国内外の数多くの研究で一致した結果となっています。

 日本人を対象としたコホート研究からは、喫煙者の肺がんの発生リスクは、男性では非喫煙者の4.5倍、女性では4.2倍という結果があります。そして、この研究からは肺がんになった人のうち、男性では68%、女性では18%が、たばこを吸っていなければ肺がんにならなくてすんだ、すなわち、たばこが原因と推計されました。たばこは、大気汚染やアスベストや化学物質の職業的曝露などに比べて、肺がんの原因として最も影響の大きな因子です。

【参考】がん予防・検診健康センター予防研究部>多目的コホート研究
●たばこと肺がんとの関係について

 一般に、喫煙期間が長く、1日の喫煙本数が多い人ほど、肺がんの発生リスクが高まります。「1日のたばこの本数×喫煙年数」の数値が600以上の場合は、肺がんの発生ハイリスク群とされます。

 本人が喫煙する直接喫煙ばかりでなく、受動喫煙による健康被害も大きな課題となっています。受動喫煙によって肺がんの発生リスクが高まることは、科学的な根拠が示されており、受動喫煙者は、そうでない人に比べて、肺がんの発生リスクが20~30%程度高くなると推計されています。

肺がんの最大の予防法は、禁煙

 肺がんを予防する最大の方法は、禁煙することです。たばこの発がん物質は、喫煙により体内に取り込まれ、血液に乗って細胞内のDNA(遺伝子)を傷つけ、細胞が分裂する際にコピーエラーを起こし、DNAの突然変異を起こすと考えられています。
 この遺伝子変異をきっかけに、複数の要素が関係し合って、段階的にがん化していくことから、肺がんに限らず、全身の臓器に影響を与えさまざまな疾病のリスクを高めます。
 呼吸器疾患ではCOPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめ、特発性間質肺炎(肺線維症)、自然気胸、肺好酸球性肉芽症、睡眠時無呼吸症候群などのリスクを高め、循環器疾患では、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳卒中(脳出血、脳梗塞)、末梢血管閉塞(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)、大動脈瘤などのリスクを高めることがいろいろな研究で示されています。
 そのほか、胃・十二指腸潰瘍、骨粗しょう症、白内障、歯周病、生殖機能障害(精子数の減少、排卵率の低下、インポテンツ、不妊症など)などのリスクを高めることも指摘されています。
 ですから、喫煙者は禁煙することで、肺がんはもちろん、さまざまな臓器に発生するがんやありとあらゆる疾病のリスクを下げ、健康の維持・増進につながります。また、職場や家庭でほかの人のたばこの煙を吸ってしまう受動喫煙も、肺がんをはじめ、そのほかのがんや呼吸器疾患・循環器疾患などの発生リスクを高めます。
 「世界禁煙デー」「禁煙週間」の機会に、ぜひ禁煙しましょう。どうしても止められない場合は、せめて、たばこを吸わない人の健康に危害を加えないようにして吸うように配慮をしてください。
 喫煙しない人も油断せず、飲食店などを利用するときは、全席禁煙の店や少なくとも完全に分煙された店を選ぶなど、他人のたばこの煙を吸わないようにすることも大切です。

 なお、抗酸化作用のある栄養成分はがん予防効果があるとされており、β-カロテンも注目されている一つです。かつては、β-カロテンは肺がんの発生リスクを下げるものと期待されていましたが、欧米で行われた肺がんのハイリスクグループを対象に行われた2つの無作為比較試験では、β-カロテンを多く摂取(1日に20~30mg)すると、肺がんの発生リスクが20~30%高まったという結果が示されました。つまり、喫煙者の場合は、β-カロテンの過剰摂取は、肺がんの発生リスクを高めることがわかりました。
 肺がん予防のつもりで、サプリメントなどでβ-カロテンをたくさん摂取し、喫煙を続けることのないよう、くれぐれもご注意ください。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。