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糖尿病の既往症があると、高まるがんリスク

糖尿病の既往症があると、高まるがんリスク

 糖尿病の既往症があると、糖尿病にかかっていない人よりがんにかかりやすいという結果が出ています。部位別で見ると男性では肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、結腸がんにかかりやすく、女性では胃がん、肝臓がんにかかりやすいという結果に。

血液内でブドウが過剰になった状態が続き、糖尿病に

 私たちが食事で取り込んだ糖質(ごはん、パン、めん、菓子、果物などに含まれる)は、ほとんどがブドウ糖になります。血液中のブドウ糖を血糖といい、体のいろいろな細胞(脳、筋肉、肝臓など)に取り込まれて、エネルギー源として使われます。
 血糖の量(血糖値)は、膵臓のランゲルハンス島の中にあるβ細胞から分泌されるインスリンというホルモンの作用によってコントロールされています。このインスリンの分泌が低下したり、働きが十分でないと血糖がスムーズに細胞内に入っていけなくなったり、肝臓から過剰なブドウ糖が放出されるなどして、血液中のブドウ糖が過剰になり、血糖値は高くなります。

 この高血糖状態が続くことで起こるのが糖尿病です。のどが渇く、トイレが近い、できものができやすい、傷が治りにくい、だるい、疲れやすいなどの自覚症状がみられます。糖尿病を放置しておくと、「三大合併症」といわれる糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害を起こしてしまいます。
 また、高血糖によって動脈硬化が進み、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、白内障、下半身の壊疽(えそ)などの合併症が起こりやすくなるほか、細菌やウイルスへの抵抗力も弱まり、腎盂炎、膀胱炎、気管支炎、肺炎などにもかかりやすくなります。

 厚生労働省の2010年度(平成22年度)の『国民健康・栄養調査』(概要)によると、30歳以上で糖尿病が強く疑われる人は、男性で17.4%、女性で9.6%、糖尿病といわれた人は男性で16.1%。女性で8.8%。年々増化しています。

糖尿病の既往症のある人は、がん発生リスクがアップ

 欧米の報告を中心とする世界の複数の研究を統合した解析(メタ解析)によると、糖尿病の既往症がある人は、ない人に比べて、膵臓:1.82倍、肝臓:2.50倍、大腸:1.30倍、乳房:1.20倍、子宮体部:2.10倍、前立腺:0.84倍、がんにかかるリスクが高くなることが示されています。

 日本でも、約10万人の男女を対象に11年間の追跡調査を行った国立がん研究センターのコホート研究では、11年後の追跡調査の結果では、糖尿病の既往症がある人は、ない人に比べて、男性では、肝臓:2.24倍、腎臓1.92倍、膵臓:1.85、結腸:1.36倍など(全部位平均:1.27倍)、女性では、胃:1.61倍、肝臓:1.94倍、直腸:1.65倍、腎臓:1.36倍など(全部位平均1.21倍)という結果でした。

インスリン抵抗性によって腫瘍増殖が促進され、がん化へ

 糖尿病や高血糖が、がんリスクを上昇させるメカニズムについては、インスリン抵抗性による腫瘍増殖が関連すると考えられています。インスリン抵抗性とは、「インスリンは膵臓から血液中に分泌されていますが、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下しているために、血糖をコントロールする作用が鈍くなっている状態」をいいます。

 具体的にいうと一つは、運動不足や食事の欧米化により肥満(特に内臓脂肪の蓄積)となり、インスリンの働きを悪くする物質(FFA、TNFα、レジスチン)が増化し、また動脈硬化を防ぎ糖代謝を促進する物質(アディポネクチン)が減少する。これによってインスリン抵抗性を招き、高インスリン血症や遊離型IGF-1の増加を招く。結腸や肝臓などの標的臓器においてIGF-1受容体を活性化し、腫瘍細胞の増殖やアポトーシスの抑制などをもたらし、がん化するのではないか―という考えです。アポトーシスとは、役目を終えたり、不要になった細胞が自ら死ぬ現象で、細胞死ともいいます。
 もう一つは、肥満によりインスリン抵抗性となり、高インスリン血症を招く。これにより肝臓での性ホルモン結合グロブリンの産生が抑えられ、エストロゲンなどの性ホルモンの作用が高まり、乳房や子宮体部における細胞増殖が活発になるとともにアポトーシスが抑制されて細胞増殖が盛んになり、がん化するのではないか―という考えです。

 糖尿病の既往症があると、がんになるリスクは1.2~1.3倍ほど高くなるといえます。これに対して、喫煙者は非喫煙者に比べて1.6倍ほどリスクが高まります。糖尿病にすでにかかっている人は、糖尿病のコントルールを行い、禁煙する、過剰飲酒をやめて適量を守る、食べすぎず栄養バランスのよい食事をとる、適切な運動量を維持するなどの生活習慣を実践し、かつ有効ながん検診を定期的に受けることが大切です。糖尿病にかかっていない人は、上記のような生活習慣を実践することが、がん予防にもつながる効果が期待されます。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。