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女性ホルモンと乳がんのリスク

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女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌量が多い時期が長く続くほど、その影響を受けてがん発生のリスクが高まるのが、乳がんです。適度なイソフラボン摂取がエストロゲン依存性の乳がんの発生リスクを抑える可能性があります。閉経後はエストロゲンの分泌は減りますが、肥満になると脂肪組織からアロマターゼという酵素が分泌され、副腎皮質から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)からエストロゲンを合成します。肥満は要注意。

生涯のうち、16人に1人が乳がんになる時代に

日本での乳がん罹患率は近年急増し、毎年新規に6万人近い人が乳がんにかかっています。日本の女性が生涯で乳がんにかかるリスクは、16人に1人(臓器別では第1位)と推計されている(国立がん研究センターがん対策情報センター「最新がん統計」2005年データ)ほど、身近ながんになっています。

乳がんの多くのタイプは、その発生や増殖に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが大きくかかわっていることが多いことがわかっています。わが国で乳がんが増えている背景には、食生活の変化や晩婚少子化、経口避妊薬の使用、閉経後のホルモン補充療法など、女性の生活スタイルの欧米化に関係していると考えられています。

乳がんのリスクとして、以下のようなことが挙げられます。予防のために少しでもリスクを減らしたり、早期発見に留意したりするうえで、参考にするとよいでしょう。ただし、リスクに該当しない場合でも、乳がんに罹る人はいますので、安心はできません。

【乳がんのリスク因子】

  • 40歳以上
  • 母親や姉妹など家族に乳がんになった人がいる
  • 良性の乳腺疾患がある(あった)
  • 初産年齢が遅い
  • 放射線被曝が頻回または高線量
  • 初潮年齢が早い
  • 閉経年齢が遅い
  • 出産経験がない、または少ない
  • 授乳経験がない、または短い
  • 閉経後に肥満した
  • 若いころにやせていた
  • 身長が高い
  • ホルモン補充療法(HRT)を長期間続けている
  • 経口避妊薬(OC)を長期間使用した
  • 飲酒習慣がある
  • 身体活動度が低い
  • など

女性ホルモンが、乳がんリスクを高める

授乳の経験がない(または少ない)ことや、早い初潮・遅い閉経、ホルモン補充療法・経口避妊薬の長期使用については、該当しない人に比べて、高濃度(分泌量が多い)の女性ホルモン(特にエストロゲン)に長期間さらされていることで、その影響を強く受けているという共通点があります。妊娠・出産は、乳腺細胞の分化が進むことにより、がん細胞になりにくくなるものと考えられています。

閉経後は女性ホルモンの分泌量は減少します。しかし、体内の脂肪組織や副腎、卵巣に存在するアロマターゼという酵素が、副腎皮質から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)をエストロゲンに変える働きをするため、閉経後の肥満は乳がんのリスク因子になります。

閉経前の肥満、特に欧米人に見られるような高度肥満については、無排卵などを誘発してホルモンレベルに影響を与えて、むしろ乳がんのリスクを低下させるとされています。

なお、乳がんのリスク因子と一部共通したがんに、卵巣がんと子宮体がんがあります。卵巣がんは、出産経験がない(少ない)ことがリスク因子の一つとされています。子宮体がんは、肥満が体内の女性ホルモンレベルを上げ、リスクを上げるとされています。

大豆に含まれるイソフラボンが、乳がんリスクを低下させる

2003年(平成15年)の厚生労働省研究班による多目的コホート研究(現・国立がん研究センターによる多目的コホート研究)によると、閉経後の女性の場合、大豆に含まれるイソフラボンの摂取量が多い人ほど、乳がんの発生リスクが低下するという結果が得られました(最大70%低下)。

イソフラボンは、化学構造がエストロゲンと似ています。イソフラボンが、乳腺細胞のエストロゲン受容体に、エストロゲンより先回りして結合することにより、エストロゲンの働きを弱めることが、乳がんのリスクを低下させるのではないかと考えられています。

イソフラボンは、大豆製品、豆腐、納豆、煮豆、油揚げ、みそなどに含まれていますので、バランスよく食事に取り入れるとよいでしょう。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。