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甲状腺がんは、放射線被曝とヨウ素の過剰摂取に注意

甲状腺がんは、放射線被曝とヨウ素の過剰摂取に注意

 甲状腺がんのリスク因子として確立しているのは、放射線被曝です。また、甲状腺刺激ホルモンもリスク因子ではないかと考えられています。甲状腺がんの種類によっては、海藻などに多く含まれるヨウ素(ヨード)の過剰摂取との関係が指摘されています。

主なリスク要因は、放射線被曝とヨウ素

 甲状腺は、いわゆる「のどぼとけ」(甲状軟骨先端)のすぐ下で、蝶が羽を広げたような形で気管を取り囲むように存在する10~20gほどの小さな臓器です。甲状腺の働きは、「ヨウ素(ヨード)」を材料に、甲状腺ホルモンを合成し、血液中に分泌することです。甲状腺ホルモンは全身の臓器および細胞の新陳代謝を活発にしたり、神経系や体の活動を調整したり、成長を促進するなどの働きをしています。
 この甲状腺にできた悪性腫瘍を甲状腺がんといい、「乳頭がん」「濾胞がん」「未分化がん」「髄様がん」に大別されます。

 甲状腺がんの確立したリスク要因として挙げられるのは、「放射線被曝」です。「甲状腺刺激ホルモン」もリスク要因ではないかと考えられています。
 ヒトは海藻などの食物を摂取し、消化・吸収したヨウ素を甲状腺に取り込んでいます。食物から十分なヨウ素を摂取できていれば、甲状腺はある程度ヨウ素で満たされた状態にあります。逆にヨウ素が不足した食生活をしていると、甲状腺はヨウ素欠乏状態になり、ヨウ素の吸収が高まります。この状態で、原発事故などで多量に放出された放射性ヨウ素が体内に入ると甲状腺に蓄積します。
 特に、成長期には甲状腺ホルモンの合成が活発で、かつ、放射線被曝への感受性が高いことが知られています。チェルノブイリの原発事故では、放射線ヨウ素に汚染されたミルクなどを飲むことで甲状腺に大量被曝を受けた成長期にある子どもや青少年において、甲状腺がんが増加しました。
 概して、被曝年齢が若いほど、また、ヨウ素欠乏があるほど、リスク増加は大きくなると考えられていますが、成人期以降の被曝による影響については、明確な証拠はないとされています。
 また、甲状腺がんは悪性度の低いがんであり、死に至る場合は少なく、一方、亡くなった方の甲状腺を調べると多くの人にがんが見つかることが知られています。

甲状腺の種類によっても、リスク要因が異なる

さらに甲状腺がんは、種類によってもそれぞれのリスク要因が異なります。

  • 乳頭がん
    日本人に最も多いのが乳頭がんで、甲状腺がんの85~90%を占めています。40~50代の女性に多くみられ、非常にゆっくりと進行します。治療経過が良好で、死亡率の低いがんといえますが、術後10~20年経過して再発することもあるので、長期経過観察が必要です。
    放射線被曝との関係が深く、乳幼児期は特に成長が早いことから放射線被曝の感受性もさらに高く、乳幼児期に頭頸部に放射線療法などを受けた治療歴があると、乳頭がんが発生する確率が高くなることが示されています。
    また、食べ物では、海藻などに多く含まれるヨウ素の過剰摂取が、リスク要因となることが指摘されています。日本人を対象とした研究においても、海藻の摂取頻度が高い女性ほど、乳頭がんのリスクが高くなるという報告もあります(参考「閉経後の女性では、海藻の食べすぎが甲状腺がんの発生に関連」)。
  • 濾胞がん
    濾胞がんは甲状腺がんの約5~10%を占め、肺や骨など離れた臓器に転移することがありますが、それでも進行はゆっくりです。乳頭がんとは逆に、濾胞がんのリスク要因は、ヨウ素摂取の欠乏であるとの報告があります。
  • 髄様がん
    髄様がんは甲状腺がんの1~2%と頻度は低いものの、乳頭がんや濾胞がんよりは進行が速く、リンパ節や肺、肝臓などへの転移を起こしやすい性質があります。
    髄様がんの20~30%は、家族性(遺伝的要素)が強いことが報告されています。家族性の場合、髄様がんは「多発性内分泌腫瘍症」(MEN2A/B:複数の内分泌腺に発生する遺伝性の腫瘍)として発生します。家族も含めて検査が行われることがあります。
  • 髄様がん
    未分化がんは甲状腺がんの1~2%と発生頻度は低いものの、進行が速く、周囲の臓器(反転神経、気管、食道など)に広がったり、肺や肝臓、骨などへの転移を起こしやすい、悪性度の高いがんです。高齢者に多くみられます。乳頭がんの一部が未分化がんに変わることがあります。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。