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60歳代になったら、前立腺がんに注意

60歳代になったら、前立腺がんに注意

 近年日本でも罹患者数が増加中の前立腺がん。60歳代から加齢に伴って発生率が急増しています。以前は男性ホルモンのアンドロゲンが前立腺がんの発症に関係が深いと考えられていましたが、最近ではIGF-1(インスリン様成長因子1)との関係が指摘されています。前立腺がんの確立したリスク要因は、年齢、人種、前立腺がんの家系であり、予防可能な要因については、現在のところ明らかになっていません。

前立腺がんは、60歳代から急増

 前立腺は男性の膀胱のすぐ下にあり、膀胱から出た尿道を取り巻くように存在する男性特有の生殖器官です。精液の一部となる前立腺液を分泌しています。
前立腺がんは、50歳代あたりから徐々に増え始め、60歳代で急増し、高齢になるほど増加しています。ただし、前立腺がんは、他の病気や事故などで亡くなった人を解剖して詳しく調べると30~70%程度の人に見つかるという報告もあり、検診などにより精密検査の機会が増えると、診断されやすくなることが知られています。

 前立腺がんの発生率の違いには人種差があり、米国黒色人種がもっとも高く、次に白色人種が高いとされており、欧米諸国に多くみられるがんです。かつては日本を含むアジアでは少ないとされていましたが、近年では日本での増加傾向も顕著になっています。

年齢、人種、前立腺家系は、確立されたリスク要因

 前立腺がんの確立されたリスク要因は、

  • 年齢(高齢者)
  • 人種(黒色人種)
  • 前立腺がんの家系

 とされています。

 これまでは、動物実験の結果などから、アンドロゲン(男性ホルモンの一つ)が前立腺がんの発生に重要な役割を果たしているとされ、また、高齢になるほど罹患者数が増えることから、加齢によるホルモン環境の変化(アンドロゲンの分泌減少)が前立腺がんのリスク要因の一つと考えられてきました。
 しかし、現在までの疫学研究においては、この仮説を裏付ける結果は得られていません。

インスリンに似た成長モルモンとの関連も指摘

 前立腺がんのリスク要因について、最近の研究結果では、IGF-1(インスリン様成長因子1)との関連が指摘されています。
 IGF-1とは、成長ホルモンの働きにより主に肝臓で産生される物質で、人体のほとんどの細胞に影響を与えます。インスリンに似た作用を持つほか、細胞の成長と発達を促進する作用、細胞のDNA合成を調節する作用などを持っています。

 肥満などが原因で高血糖状態(血糖値が上がったままの状態)になると、これを解決しようと膵臓から多くのインスリンが分泌され続け、高インスリン血症(血中のインスリン濃度が慢性的に高い状態)を引き起こしてします。高インスリン血症では、インスリンの血中濃度が高くなっているだけでなく、インスリンに似た作用を持つIGF-1の血中濃度も高くなっています。
 いくつかの研究では、IGF-1の血中濃度が高いほど、前立腺がんの発生リスクが高まることが示されています。

前立腺がんの発生と食事や栄養は、特に関連はない

 食事や栄養に関してのリスク要因も、現在のところ、まだはっきりとはわかっていません。動物性脂肪、乳製品、カルシムの取りすぎが候補として挙げられてはいます。
 ちなみに、前立腺がんの予防効果のある食事や栄養については、野菜、果物、カロテノイド(なかでもリコペン)、ビタミンE、セレン、ビタミンD、イソフラボンなどの摂取が候補に挙げられていますが、これらも現在のところ、確立した予防要因とまでは言えません。
 食事や栄養のほかにも、喫煙、体格、アルコール、身体活動などと、前立腺がんとの関連が研究されていますが、関連はないとする報告が多いようです。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。