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男性が10年間で大腸がんを発生する確率

男性が10年間で大腸がんを発生する確率

 生活習慣を中心とした5つの因子から、その人が10年間で大腸がんにかかる確率を予測することができます。この予測モデルを活用して自分の生活習慣を見直すきっかけにしましょう。

個人における、がんの発生確率を求める研究

 日本各地(分散された特定の地域)において、平成5年(1993年)に生活習慣に関するアンケート調査を実施し、回答した40~69歳の男性約28,000人を、その後平成17年(2005年)まで追跡調査し、その結果に基づき10年間で個人が大腸がんを発生する割合を予測しました。予測の確からしさについては、この研究の別の地域の対象者約18,000名で確認しました。
 がんをはじめとした生活習慣病とリスク因子との関連を調べる研究では、主に「~と比べて」という「相対的な」指標が算出されます。たとえば、「タバコを吸わない人に比べて、吸う人では肺がんのリスクが5倍である」とか、「コーヒーをほとんど飲まない人に比べて、1日5杯以上飲む人では肝がんのリスクが約1/4である」などと示されます。
 ただし、がんを予防し罹患者を減らすには、集団としてのリスク回避よりも、個人の生活習慣を改善する必要があることから、その動機付けのためにも、個人のがん発生確率がわかるような指標が求められます。そこで男性について、ある人が10年間で大腸がんにかかる確率を予測するモデルをご紹介しましょう。

身近な「5つの危険因子」で大腸がんの発生確率を予測

 大腸がんの発生と深く関わっている因子は、日本人男性の場合、「年齢」、「肥満度(BMI)」、「身体活動」、「飲酒習慣」、「喫煙習慣」の5つが重要であることがわかっており、これらの因子はどれも国際的な研究でも大腸がんの発生リスクとの関連が明らかになっています。

 そしてこれらの5つの因子を点数化し、より簡単な計算により大腸がんの発生確率を求めるスコアシートを作成しました。
 たとえば、「年齢50歳、BMI 23、身体活動25、飲酒量時々、現在喫煙習慣なしの人の場合」、スコアシートにより計算すると、
スコアの合計=年齢50歳(3)+BMI 23(0)+身体活動 25(-1)+飲酒量時々(0)+現在喫煙習慣なし(0) =3+0+(-1)+0+0=2
 この2という数字は、10年間における大腸がんの発生確率では「0.7%」となります。

 では、4つの因子がすべて最もリスクの高い状態の場合、大腸がん発生確率は、
スコアの合計=年齢50歳(3)+BMI 25以上(1)+身体活動 24.7未満(0)+飲酒量300g以上/週(2)+喫煙習慣あり(1) =3+1+0+2+1=7
 この7という数字は、10年間における大腸がんの発生確率では「3.3 %」 となります。

 同じ年齢であっても生活習慣の違いによって、10年間で大腸がんになる確率に差が生じることがわかります。

【図の出典】独立行政法人 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター 予防研究グループ 多目的コホート研究「男性が10年で大腸がんを発生する確率について:危険因子による個人のがん発生の予測」http://epi.ncc.go.jp/riskcheck/crc/

【身体活動】「メッツ(METs)」とは、座って安静にしている状態を「1メッツ(METs)」とし、その何倍に相当するかで「身体活動の強度」を表す単位。普通に歩いている状態は「3メッツ」。「メッツ・時」は「メッツ」に実施時間を掛けた「身体活動の量」の単位。「メッツ・時」が24.7未満となるような活動とは、「座っている時間」が10時間、「歩いたり立ったりしている時間」が3時間、「睡眠時間」が11時などきている間でもほとんど座っているような状態。一般的な人の日常生活であれば、24.7(メッツ・時)以上(スコア-1)と考えられる。

予測モデルの活用法は、いろいろ

 この式は男性のみに当てはまるもので、女性の大腸がんに対するリスク因子は男性ほどはっきりしていません。また、今回の結果はあくまで過去の研究結果と統計的な計算式に基づき、これからの10年間での大腸がん発生確率を単純な方法で推定したものです。実際には、5つの因子以外にも食事の内容やスタイル、体質、過去の病歴などさまざまな因子が複雑に影響することから、予測されたリスク(%)とは多少違いが生じます。
 こういった点はあるものの、この予測モデルは自分の生活習慣を見直すきっかけとなるほか、医師や保健従事者が臨床や公衆衛生の場で対象者のリスクを算出し、生活指導に役立てたり、プログラムを組んで個人で直接計算できるようなツールを作成するなど、活用法次第では、展開が広がります。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。