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職業や学歴によって胃がんの生存率が変わる?

職業や学歴によって胃がんの生存率が変わる?

 多目的コホート研究により、「専門職・事務職」に比べ、「無職」「肉体労働者」「販売員・その他」の職業では、胃がんの死亡リスクが高いことが示されました。職業の内容や特徴による結果というよりは、その集団に特徴的な傾向が影響していると分析。「胃がん検診の受診率の低さ」やその結果として「診断の遅れ」が指摘されています。

さまざまに記載された職業を5つに分類し、分析

 日本各地(分散された特定の地域)の40~59歳の男女約4万3千人(男性約2万1千人、女性約2万2千人)を対象に、平成2年(1990年)に調査を開始し、平成16年(2004年)まで追跡調査したうち、胃がんになったことが確認された725人を対象に「社会的経済的要因と胃がんの生存率」を分析した多目的コホート研究があります。

 対象者の社会的経済的状態を把握する指標として、調査開始時に行われたアンケートの回答内容が用いられました。まず、さまざまに記載された職業を「専門職・事務職」「販売員・その他」「農業従事者」「肉体労働者」「無職」(専業主婦を含む)の5つに分類。教育については最終学歴によって「中学校」「高等学校」「大学以上」の3つに分類されました。収入については不明です(アンケートの質問項目にない)。

「無職」「肉体労働者」「販売員・その他」は、胃がん死亡率が高い

 職業によって男女比が異なる場合もあります。職業別のリスク算出にその影響が出ないよう、統計的な手法で3段階(HR1~HR3)の補正が行われ、「専門職・事務職」を「1」とし、これに比べて他の職業でどれくらい胃がん死亡のリスクに違いがあるかを算出しています。

 「HR1」段階では、「専門職・事務職」と比較して、「無職」「肉体労働者」「販売員・その他」の職業では、高い死亡リスク(低い生存率)が示されました。しかし、「HR2」、「HR3」と補正要因を増やすにしたがって、その差は小さくなります。

職業の特徴より、胃がん検診受診率などのその集団の傾向の影響が大きい

 HR1で「無職」「肉体労働者」「販売員・その他」の職業で、高い死亡リスクが示されたのは、職業の内容や特徴による結果というよりは、その集団に特徴的な傾向、たとえば「胃がん検診の受診率の低さ」やその結果として「診断の遅れ」につながることに起因していると分析しています。

 性別や年齢別の階層に分けた分析結果では、女性や高齢者の場合は「無職」であっても胃がん死リスクは特に高くはなっていませんでした。職業分類の「無職」には、専業主婦や引退者を含んでおり、そうした人々が必ずしも健康管理状況が悪いわけではないためと分析しています。
 また、男女ともに学歴(教育歴)の違いによる胃がん生存率の明らかな違いはみられませんでした。

 この研究はサンプル数が比較的少ない、診断法に関する情報がない、職業分類が粗いなど、いくつかの問題点が残されているものの、職業と胃がん生存率(死亡リスク)の関係やその原因について分析する上で、胃がん検診の受診率を高めることの重要性が改めて確認される結果となったことで、意義深い研究であるとしています。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。