文字サイズ

20歳時体重と成人後の体重の変化と、乳がんとの関係

20歳時体重と成人後の体重の変化と、乳がんとの関係

 20歳時に BMI(kg/m2)が20未満(低体重)の女性は、BMI20以上の女性と比べ、閉経前の乳がんにかかりやすく、閉経後の乳がんについては、逆に、太りすぎが乳がんの発生のリスクを高めるという研究結果があります。若い人の「やせ」と閉経後の「太りすぎ」は、注意が必要です。

20歳時のやせすぎ、将来の乳がん発生リスクを高める

 日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の女性約4万人を対象に、平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に生活習慣についてのアンケート調査を実施し、その5年後、10年後に実施したアンケ-ト調査の回答から、「20歳時と成人後の体重の変化と、乳がんとの関係」と分析した多目的コホート研究があります。

 体重はBMIという体格指数( kg/m2)を用いて評価しています。
「20歳時の体重」はBMIで
  ・「18.5未満」
  ・「18.5から19.9」
  ・「20から23.9」
  ・「24以上」
の4つのグループに分けました。
「成人後の体重の変化」もBMIで
  ・「減少:< -2.5」
  ・「安定:-2.5から+2.49」
  ・「増加:+2.5から+4.9」
  ・「大幅増加:+5.0以上」
の4つのグル-プに分けました。そしてこれらのグループごとに、乳がんの発生率との関係を比べています。

女性ホルモンに関連のある乳がんは、体重との関連が大きい

 調査開始時(平成2年:1990-平成5年:1993年)から、平成18年(2006年)までの追跡調査期間中に、452人に乳がんが発生したことがわかりました。
 0歳時の体重が「BMI:20から23.9の人」に比べて、「BMI:18.5から19.9の人(低体重)」では、乳がんのリスクが1.45倍高いことや、「BMI:24以上の人(高体重))」では、乳がんのリスクが0.75倍低いことがわかりました。

 最近の体重(BMI)が「24未満」の人と「24以上」の人の2つのグループに分けて、「20歳時の体重」と乳がんのリスクを見ても、両方のグル-プで前述の傾向が認められました。
 現在が「閉経前」または「閉経後」であるかで分けると、閉経前では、20歳時に低体重であったグループで、乳がんリスクが1.57倍高くなっています。
 乳がんの多くは、女性ホルモンに関係しており、がん細胞に女性ホルモン受容体があるタイプを陽性、受容体がないタイプ(女性ホルモンに関係しないタイプ)を陰性と言います。ホルモン受容体陰性の乳がんで、統計学的に有意な負の関連がみられました。

閉経後の女性では、体重増加が乳がん発生リスクを高める

 成人後の体重の変化との関連で、「安定:-2.5から+2.49」のグループと、「大幅増加:+5.0以上」のグループで比較すると、閉経前の女性では「20歳時の体重」が低体重か高体重かによって、成人後の乳がんの発生との関連は認められませんでした。
 しかし、閉経後の女性では、「安定:-2.5から+2.49」のグループに比べ、「大幅増加:+5.0以上」のグループのほうが、乳がんのリスクが1.79倍高いことがわかりました。
 この閉経後の女性の「体重増加と乳がんリスク上昇の関連」は、20歳時のBMIが20未満のグル-プでは認められず、20歳時のBMIが20以上のグル-プでは認められましたが、統計学的に有意な差はありませんでした。
 ホルモン受容体別にみると、特に陽性の乳がんで、閉経後の女性における体重増加と乳がん発生との関連が示されました。

「20歳時の低体重」と「乳がん発生」の関連

 「20歳時の体重と乳がん発生リスクとの関連」についてのメカニズムは、まだ、はっきりわかっていません。女性ホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンの過剰分泌や長期間の分泌により、細胞が女性ホルモンにさらされる機会が多いことが、リスク要因だと考えらえています。
 この考えにより、閉経前に肥満していると「排卵障害」などが起こりやすく女性ホルモンの分泌が低化し、乳がんのリスクが低くなると推測されます。
 これまで閉経後女性の肥満と乳がんの発生リスクとの関連は示されていましたが、「肥満以外の要因」や「やせによるリスク上昇」のメカニズムも関わる可能性が示されたと言えます。

若い女性の「低体重」と閉経後女性の「肥満」は、乳がんリスクの上昇要因

 閉経後の女性は、主に脂肪組織で女性ホルモンが産生されます。そのため、閉経後の女性は、肥満が乳がんの発生リスクとなります。閉経後の女性で、体重の大幅増加のグループで、乳がんの発生リスクが高くなったのはそのためと考えられます。
 ホルモン受容体別にみると、閉経後の女性における体重増加と乳がん発生リスク上昇の関連は、「ホルモン受容体陽性の乳がん」においてのみ、認められ、上記のメカニズムを裏付ける結果と言えます。

 日本人において、20歳時に BMIが20未満の女性、つまり若いときに低体重の女性は、BMI20以上の女性と比べ、将来(閉経前に)、乳がんにかかりやすいということが示されました。また、閉経後の乳がんについては、脂肪の蓄積が乳がんの発生リスクになるので、肥満予防を心がける必要があります。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。