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亜鉛・ヘム鉄摂取と大腸がんの関連

亜鉛・ヘム鉄摂取と大腸がんの関連

 亜鉛やヘム鉄はともに、牛肉・豚肉・羊肉などの赤肉と呼ばれる肉や、魚に多く含まれています。欧米での研究では、亜鉛は大腸がんのリスクを下げ、ヘム鉄はリスクを上げると報告されています。日本人でも同様のことが言えるのでしょうか? 日本人を対象にした研究結果をご紹介します。

赤肉や魚に多い亜鉛やヘム鉄と、大腸がん発生との関連を調査

 日本各地(分散された特定の地域)の45~74歳の男女約8万5千人を対象に、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に食習慣などについてのアンケート調査を実施し、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果にもとづいて、亜鉛およびヘム鉄の摂取量と大腸がん発生との関連を調べた結果を分析した多目的コホート研究があります。  

 亜鉛やヘム鉄は、いずれも牛肉・豚肉・羊肉などの赤肉と呼ばれる肉や、魚に多く含まれます。亜鉛やヘム鉄と大腸がんリスクについて、これまで報告された研究では、亜鉛は大腸がん発生のリスクを下げ(予防効果があり)、ヘム鉄は大腸がん発生のリスクを上げることが示されています。
 研究のほとんどが欧米から報告されたものです。欧米人と比べて日本人は亜鉛やヘム鉄の摂取が少なく、また、亜鉛やヘム鉄を欧米人は赤肉からとることが多く、日本人は魚からとることが多いという違いがあります。そこで、日本人独自の結果を、多目的コホート研究により検証してみました。

 この研究では、開始時のアンケートから、1日当たりの亜鉛およびヘム鉄の摂取量によって、それぞれ4つのグループに分けて、大腸がんの発生リスクを調べています。追跡期間中に、対象者8万5千人のうち、1284人(男性786人、女性498人)が大腸がんと診断されました。

日本人では、亜鉛摂取と大腸がんリスクとの関連はなし

 この研究の結果では、男女ともに亜鉛摂取およびヘム鉄摂取ともに、大腸がんのリスクとの関連はみられませんでした。

 あえて言えば、飲酒習慣のある男性では、亜鉛摂取量が多いほど、大腸がんのリスクが低くなる結果が示されましたが、偶然に見られた結果なのかもしれません。今後さらに大規模な集団での研究が必要と考えられます。

日本人では、ヘム鉄摂取と大腸がんリスクとの関連もなし

 ヘム鉄と大腸がんリスクとの関連について、これまで欧米から報告された研究では、ヘム鉄の摂取量が増えると、大腸がんのリスクが上がると報告する研究がある一方、関連がないと報告する研究もありました。
 欧米ではヘム鉄を赤肉や加工肉から摂取する割合が高いのですが、赤肉や加工肉には、同時に発がん物質とされる硝酸塩も含まれています。また、赤肉や加工肉の調理時に生じる焦げ部分にはヘテロサイクリックアミンが発生し、これも発がん物質の可能性があります。こういったことから、赤肉やその加工肉の摂取が多い欧米では、大腸がんのリスクが上がる可能性があることも否めませんが、日本人では摂取量が比較的少ないために関連が明らかでなかったのかもしれません。
 一方、魚からヘム鉄を摂取している割合が高い日本人では、魚に含まれているn-3不飽和脂肪酸やビタミンDなどが、大腸がんリスクの上昇を防いでいたとも考えられます。

 亜鉛摂取やヘム鉄摂取との関連にかかわらず、さまざまな研究結果から、大腸がんの予防には、節度ある飲酒、適度な運動、肥満解消、禁煙、偏りのないバランスのよい食生活を重視することが挙げられます。食生活では特に、牛・豚・羊などの赤肉や加工肉を食べすぎないようにし、魚を食べる割合を高めることが重要です。こういったことを日ごろから実践し、大腸がんを予防しましょう。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。