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スポーツや運動で乳がんを予防

スポーツや運動で乳がんを予防

 定期的な運動が、がんなどの生活習慣病の予防につながることは知られていますが、実際に、スポーツや運動をする機会の多い女性ほど、乳がんのリスクが低いことがわかっています。とくに閉経後の女性や太り気味の女性は、週1回でも運動することで乳がんのリスクを下げることを期待できると考えられます。

週3日以上の運動で乳がんの発生リスクが下がる

 国立がん研究センターで行っている多目的コホート研究に、日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の女性約5万人を対象に、余暇運動や総身体活動量と乳がんの発生率との関連を調査したものがあります。余暇運動とは、仕事のほかに何かスポーツや運動をする機会のことを言い、総身体活動量とは、労働や日常生活での動きも含めたすべての活動について数値化したものです。
 調査ではまず、1990年と1993年、およびその5年後にアンケート調査を行い、余暇運動の参加頻度によって対象者を「月3日以内」「週1~2日」「週3日以上」の3グループに分けました。また、総身体活動量でも3グループに分け、2007年まで追跡調査を行いました。

 その結果、平均約14.5年間の追跡期間において乳がんが発生したのは、53,578人中652人。これを余暇運動の参加頻度別にみると、「月3回以内」のグループに比べ、「週3日以上」のグループでは乳がんのリスクが0.73倍低いことがわかりました。
 乳がんはがん細胞の特性によっていくつかのタイプに分けられます。そのうち、がん細胞に女性ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲストロン受容体)があるタイプを「ホルモン受容体陽性」、受容体がないタイプ(女性ホルモンに関係しないタイプ)を「ホルモン受容体陰性」と言います。このタイプ別でみると、「ホルモン受容体陽性」の乳がんで、とくに閉経後の女性において、「週3日以上」余暇運動に参加したグループのほうがリスクが減少していました。

 なお、総身体活動量別では、エストロゲン受容体、プロゲストロン受容体ともに陽性の乳がんでは、女性全体で弱めではありますが、リスク減少の関連がみられました。なかでも閉経後の女性では、統計的に有意なリスク減少の関連がみられました。しかし、「ホルモン受容体陰性」の乳がんでは、こういった関連はみられませんでした。

肥満女性では週1回以上の運動でリスクが減少

 研究チームは、BMIという体格指数(kg/m2)を用いて、肥満度との関連も調べました。標準体重以下であるBMI25未満の女性では関連がみられませんでしたが、25以上の肥満女性では、余暇運動の参加頻度が「月3回以内」に比べて「週1回以上」のグループで、乳がんのリスクが0.65倍低いことがわかりました。
 ホルモン受容体別では、「ホルモン受容体陽性」の乳がんにおいては、弱めながらリスク減少の関連がみられましたが、「ホルモン受容体陰性」の乳がんにおいては、こういった関連はみられませんでした。

 運動と乳がんのリスクが減少する詳しいメカニズムは、まだはっきりわかっていません。また、乳がん予防に効果的な運動の種類、BMIや閉経状況による効果の違い、乳がんのホルモン受容体のタイプや各要因との組み合わせの影響については、さまざまな研究結果があり、今後さらなる検討が必要となっています。
 しかし、余暇運動への積極的な参加が、乳がん予防につながることは十分期待できます。とくに閉経後、また太り気味の女性は、週1回でもスポーツや運動を行うことを習慣とし、乳がんのリスクを下げましょう。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。