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女性ホルモンは女性の肺がん発生にも影響

女性ホルモンは女性の肺がん発生にも影響

 女性ホルモンによって増えるタイプのがんが、乳がんに多いことはよく知られていますが、実は肺がんでもみつかることがあります。肺がんの最大のリスクは喫煙ですが、喫煙していなくても、初潮から閉経までの期間が長い女性や、手術などで人工的に閉経しホルモン薬を使用した女性は、肺がんの発生率が高くなるという報告があります。ただし、肺がん予防には、まずは、現在喫煙している人は1日も早く禁煙し、喫煙していない人は他人のたばこの煙を避けるようにし注意しましょう。

初潮から閉経までの期間が長かった人は要注意

 日本人のがんのなかで、死亡数がいちばん多い肺がん。日本では、大半の女性が喫煙していないにもかかわらず、肺がんにかかる女性がいます。最近では、初潮や閉経の年齢、ホルモン薬の使用の有無など、女性ホルモンも肺がんの発生にかかわっているのではないかと疑われ始めました。そこで、国立がん研究センターで行っている多目的コホート研究では、喫煙していない女性を対象に、女性ホルモンと肺がんの発生率との関係を調べました。

 研究対象となったのは、日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の喫煙していない女性約4万5千人です。8~12年間の追跡調査の結果、153人が肺がんと診断されました。
 このうちのすでに閉経した女性について、初潮の年齢を15歳以下と16歳以上、閉経の年齢を50歳以下と51歳以上に分け、4つのグループで肺がんのリスクを比較しました。すると、初潮から閉経までの年数がもっとも短かったグループ(初潮16歳以上で閉経50歳以下)に比べ、ほかの3つのグループでは肺がんの発生率が2倍以上も高くなりました。初潮から閉経までがもっとも長かったグループ(初潮15歳以下で閉経51歳以上)では2.2倍、そのうち子宮摘出術などで人工的に閉経を迎えた人を除くと、2.8倍にもなりました。

人工閉経でホルモン薬を使った場合も、肺がんの発生率が高い

 さらに、ホルモン薬の使用と肺がんの発生率との関係についても調べました。まず、手術などで人工的に閉経したグループと自然に閉経したグループに分け、それぞれをさらにホルモン薬を使用したグループと使用していないグループに分け、4つのグループで比較しました。
 その結果、自然に閉経しホルモン薬を使用したことのないグループに比べて、人工的に閉経しホルモン薬を使用したグループでは、2倍以上も肺がんの発生率が高くなっていました。なお、自然閉経の場合は、ホルモン薬の使用の有無による発生率の差はほとんどありませんでした。

 以上のことから、体のなかで作られる女性ホルモンも、ホルモン薬のように外から取り込む女性ホルモンも、肺がんの発生にかかわっていると考えられます。閉経女性を対象にした、ホルモン補充療法による心血管疾患予防効果を調べる研究で、ホルモン薬の使用者で肺がんのリスクが高くなったとする報告もあります。そのメカニズムについてはまだよく解明されていませんが、肺の腫瘍細胞中にもあるとされているエストロゲン受容体に作用することによる腫瘍増殖の促進などが示唆されています。
 初潮や閉経の年齢などを自分の努力で変えることは困難です。肺がんの予防には、最大の要因であるたばこを吸わないことと、他人のたばこの煙を避けることが大切となります。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。