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「社会的な支え」と、がんの発生・死亡リスクとの関連

「社会的な支え」と、がんの発生・死亡リスクとの関連

 「社会的な支え」が、がんの発生や死亡にどうかかわるかを調べた日本初の研究を紹介します。男性において、社会的な支えが少ないグループは多いグループに比べ、大腸がんの発生および死亡リスクが高いことがわかりました。社会的な支え、つまり支えてくれる周囲の人たちが多い人のほうが、がん検診を受けたり、適切な治療を受ける努力、より健康なライフスタイルを選ぶなどの行動が可能となりやすいと考えられます。

「社会的な支えと、がんの発生および死亡との関連」を、国内で初めて調査分析

 国立がん研究センターでは、1993年(平成5年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所管内に住んでいた、40~69歳の男女約4万4,000人を対象に、2003年(平成15年)まで追跡調査した結果から、「社会的な支えと、がん発生・死亡との関連」を調べ、分析しました。  

 社会的な支えとは、心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在のことです。欧米の研究では、社会的な支えの少ない人では、多い人に比べて、乳がんの発生や死亡のリスクが高いことが報告されています。
 不安や悩みを打ち明ける相手がいない、または少なくて、一人で問題を抱えてしまい、ストレスが増幅したり、助言してくれる人が少なくて、日常的に健康を留意する行動が少ないなどから、がんなどの病気にかかりやすかったり、適切な治療につながりにくいのではと考えられています。

 日本人ではどうでしょう。前述の国立がん研究センターの研究で、「社会的な支えと、がんの発生および死亡との関連」を、国内で初めて調査分析しました。

 まずこの研究では、研究開始時に対象者全員に、以下のようなアンケートを行いました。
(1)心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)
(2)週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1~3人:1点、4人以上:2点)
(3)行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)
(4)秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点)

 そして、各回答の合計点数により「社会的な支えの指標」を立て、グループ分けし、臓器別にがんの発生や死亡を比較分析しています。
【グループ分け】
5点以上:社会的な支えが「とても多い」グループ(全体の29%)
4点:社会的な支えが「多い」グループ(42%)
2~3点:社会的な支えが「ふつう」のグループ(19%)
1点未満:社会的な支えが「少ない」グループ(10%)

社会的な支えの少ない男性は多い男性に比べて、大腸がんの発生と死亡のリスクが高い

 約12年の追跡期間中に、3,444人が、がんにかかりました。分析結果では、男女ともに、社会的な支えの「多い・少ない」と、がん全体の発生または死亡のリスクとの関係は見られませんでした。
 臓器別の分析では、男性の大腸がんにおいて、社会的な支えの「とても多い」グループに比べると、「少ない」グループでは発生が1.5倍高く、死亡は3.1倍高いという結果が示されました。
 年齢層別に見ると、59歳より若い男性で、社会的な支えが少ないほうが、大腸がんの発生・死亡ともにリスクが高い傾向が見られました。ほかの臓器では、社会的な支えの「多い・少ない」と、がん発生または死亡についての関連は見られませんでした。

周囲の支えで、健康的なライフスタイルを選ぶことにつながるからかも

 ではなぜ、「社会的な支えが少ない男性」は、「社会的な支えが多い男性」に比べて、大腸がん発生や死亡リスクが高いのでしょう。

 心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在が多い場合は、日頃から、がん検診を受けるようすすめられたり、がんになったとしても適切な治療を受けるよう促されたりする機会が多くなるでしょう。また、衣食住においても、周囲のアドバイスがあると、より健康的なライフスタイルを選んで健康的な行動をする機会が増えるでしょう。こういったことが大腸がんの発病および予後に影響すると考えられます。
 また、支えてくれる人が多い場合は、悩みや不安を周囲の人に相談でき、ストレス緩和につながり、それががん発生や死亡リスクの低下と関係しているのかもしれません。

 国立がん研究センターの多目的コホート研究でも、喫煙・飲酒・身体活動量・肥満などの不健康な生活習慣が、特に、男性の大腸がんの発生リスクになっていることや、大腸がん検診は、大腸がん死亡リスクを下げることができることなどがわかっています。男性の社会的な支えは、大腸がん予防に貢献し、また、大腸がん検診受診率を向上させ、たとえ大腸がんが見つかっても早期発見・適切な治療につながり、大腸がんの死亡リスクが低下するのかもしれません。
 なぜ、ほかのがんではなく、「男性の大腸がん」との関連が深いのかは、たまたま、そのような結果が得られたという可能性も否定できません。さらに詳しい研究と分析・検証が必要と考えています。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。