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閉経後の女性では、海藻の食べすぎが甲状腺がんの発生に関連

閉経後の女性では、海藻の食べすぎが甲状腺がんの発生に関連

 日本人は海藻を多く食べることから、必要量以上のヨウ素を摂取しています。ヨウ素のとりすぎは、甲状腺がん発生の原因となるという報告があるため、海藻の摂取頻度と甲状腺がん発生の関連を調べたところ、閉経後の女性では、海藻摂取が多いほど甲状腺がん(とくに乳頭がん)のリスクが上がっていました。海藻に多く含まれているヨウ素が、甲状腺がん発生の原因となっている可能性があります。

日本人は海藻から、必要量以上のヨウ素をとっている

 海藻は、甲状腺ホルモンの構成成分であるヨウ素を多く含んでいます。日本人は、海藻を食べる独特の文化をもっているため、必要量よりも多くのヨウ素を摂取していると考えられています。
 ヨウ素は生命維持に欠かせない重要なミネラルではあるものの、とりすぎは甲状腺がん発生の原因になるという報告があるため、日本の多目的コホート研究(JPHC研究)では、海藻摂取と甲状腺がん発生の関連について調べました。

海藻の食べすぎは甲状腺がんの発生に関連

 甲状腺がんは、男性よりも女性に多く発生する傾向があります。組織の特徴(組織型)によって、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様(ずいよう)がん、未分化がんに大きく分類されます。なかでも、日本人の甲状腺がんのおよそ9割が乳頭がんで、40~50歳代の女性に多くみられることがわかっています。また、乳頭がんは、ヨウ素を多くとっている集団に多い組織型であることもわかっています。
 そこで、研究では、平成2(1990)年と平成5(1993)年に、日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の女性約5万人を対象にし、平成19(2007)年まで追跡調査しました。約14年間の追跡調査期間中、134名が甲状腺がん(そのうち113人は乳頭がん)と診断されていました。
 海藻の摂取について、「週2日以下」「週3~4日」「ほとんど毎日」という3つのグループに分けて甲状腺がんの発生率を比較しました。その結果、海藻を食べる頻度が高い人ほど甲状腺がんになりやすい傾向があることがわかりました。
 なかでも、乳頭がんにしぼって解析したところ、週2日以下しか海藻を食べない女性に比べて、ほとんど毎日海藻を食べる女性では、約1.7倍と、統計学的に有意に甲状腺がんリスクが高くなっていました。

閉経後の女性でのみ、海藻の食べすぎが甲状腺がんリスクに

 また、甲状腺がんの発生には、女性ホルモン(エストロゲン)の関与が指摘されています。そこで、エストロゲン濃度が大きく異なる、閉経前と閉経後の女性に分けて、海藻摂取と甲状腺がんの発生の関連について解析しました。
 すると、閉経前の女性では、海藻摂取と甲状腺がん発生に関連がみられなかったのに対し、閉経後の女性では、海藻摂取の頻度が高い人ほど、甲状腺がんになりやすいという結果になりました。この原因について、考えられる可能性は2つあります。

  • 年齢による海藻摂取量の違い
    厚生労働省の国民健康栄養調査によると、閉経前の女性よりも閉経後の女性のほうが、海藻摂取量が多いと報告されています。
  • 甲状腺がん発生に関与する女性ホルモン(エストロゲン)の閉経前後での関連の違い
    海藻がエストロゲン濃度を下げる方向に働いた、という実験報告があります。また、閉経前の甲状腺がんでは、甲状腺がんの増殖に関与するエストロゲン受容体αの発現が多いことが報告されています。そのため、閉経前の女性では、ヨウ素による甲状腺がんリスクの上昇が、海藻のエストロゲン濃度を下げる働きによって打ち消され、関連が認められなかったのではないかと考えられます。
    一方、閉経後はエストロゲン濃度が低く、エストロゲン受容体αの発現も少ないため、海藻による甲状腺がん予防作用が働かず、ヨウ素による発生リスクの上昇のみが観察された可能性があります。

 この研究では、閉経後の女性にのみ、海藻摂取と甲状腺がん発生に関連がみられました。しかし、その原因はまだはっきりとわかっておらず、さらなる検討が必要です。また、この研究では、対象となった女性のヨウ素摂取量を推定することが難しく、ヨウ素摂取と甲状腺がん発生との関連を直接検討できませんでした。
 甲状腺がん予防に向けて、今後さらなる研究成果の蓄積が望まれます。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。