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胃粘膜の萎縮とピロリ菌感染と胃がんリスクとの関係

胃粘膜の萎縮とピロリ菌感染と胃がんリスクとの関係

 ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃がんとの関係は明らかです。ヘリコバクター・ピロリ抗体価検査と、炎症と深く関わるとされるCagA抗体価や、胃がんの前がん病変である萎縮性胃炎の度合いを示すペプシノーゲン(PG)の検査を組みわせて調べると、胃がんの発生リスクを把握することができます。

ヘリコバクター・ピロリ抗体価の値の意義を検討

 胃がんリスクを知るための検査の項目の一つに、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染の有無を調べる検査があります。これは、採血によって血清ヘリコバクター・ピロリ抗体価(Hp抗体価)を測定するものです。また、炎症と深く関わるとされるCagA抗体価や、胃粘膜の萎縮を示すマーカーであるペプシノーゲンを測定する検査もあります。

 国立がん研究センターが行っている多目的コホート研究では、平成2年と5年に日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の男女約4万人から、研究目的で血液を提供してもらい、その後、平成16年(2004年)まで追跡調査をし、ヘリコバクター・ピロリ(Hp)の感染の有無、炎症の度合い、萎縮性胃炎の有無や度合いなどと、胃がん発生リスクの関連を調べています。
 約12年の追跡調査機関中に、512人に胃がんが発生しました。この胃がんになった1人に対し、胃がんにならなかった人から年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチさせた1人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計1,022人を今回の研究の分析対象としました。

 この研究では、対象者の保存血液(胃がんになった人にとっても、胃がんになる前の血液)を用いてヘリコバクター・ピロリ菌の抗体価を測定し、陽性者の胃がんリスクを求めています。また、炎症と深く関わるとされるCagA抗体価や、胃がんの前がん病変である萎縮性胃炎の度合いを示すペプシノーゲン(PG)についても、血液を用いて測定し、ヘリコバクター・ピロリ菌感染と組み合わせた場合の胃がんのリスクを求めています。

 結果は、対照グループ全体の75%、胃がんになった人の94%は、研究開始時点でのヘリコバクター・ピロリ菌陽性でした。ヘリコバクター・ピロリ菌感染陽性者の胃がんリスクは、陰性者の5.1倍であることが示されました。また、CagAと組み合わせると、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性者の中で、より強い炎症を示すCagA (+)のグループで胃がんのリスクが12.5倍と最も高いことがわかりました。

ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価にCagAをあわせて調べ、正確な把握

 また、ヘリコバクター・ピロリ菌陰性者でも、CagA(+)のグループでは、胃がんのリスクが3倍と示されました。ヘリコバクター・ピロリ菌が胃に感染し、胃粘膜の萎縮がある程度以上進行すると、菌は胃粘膜にとどまることができなくなり、血液検査上は陰性と判定されることがあります。
 しかし、CagAはこの陰転化が遅れて起こることが知られており、ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価とCagAをあわせて調べることにより、ヘリコバクター・ピロリ菌の隠れた陽性者を知ることができます。このグループをヘリコバクター・ピロリ菌感染陽性に加えると、対照グループ全体の90%、胃がんになった人の99%が陽性となりました。そして、ヘリコバクター・ピロリ菌感染者の胃がん発生のリスクは10倍と示され、感染を正しく把握することにより、ヘリコバクター・ピロリ菌感染のリスクの大きさをより正確に示すことができました。

へリコバクター・ピロリ菌感染陽性+萎縮性胃炎の胃がんリスクは、10倍

 ヘリコバクター・ピロリ菌感染の後に起こる萎縮性胃炎と胃がんとの関連については、血中のペプシノーゲン(PG)で萎縮の程度を判定し、萎縮性胃炎がある人(PG +~3+)の胃がんのリスクは、ない人の3.8倍、萎縮の程度が進むと胃がんのリスクも上昇することがわかりました。ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無と組み合わせて調べると、ヘリコバクター・ピロリ菌感染陽性でかつ、萎縮性胃炎ありのグループは、感染のないグループに比べ最高の10倍のリスクが示されました。
 ヘリコバクター・ピロリ菌感染は陰性でも萎縮性胃炎であるグループの胃がんのリスクは4.9倍で、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性で萎縮性胃炎なしのグループのリスク(4.2倍)と同程度の結果が示されました。やはり萎縮が進んでいる人では、確実に胃がんのリスクが高まります。
 一方で、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染の証拠もなく、かつ、萎縮性胃炎のない人は、胃がんになることは稀であると言えるでしょう。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。