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飲酒によってリンパ系のがんの発生リスクが低下する

飲酒によってリンパ系のがんの発生リスクが低下する

 アルコール飲酒は、多くの部位のがんのリスクを上げることは確実ですが、欧米では、飲酒量が多いほうが悪性リンパ腫の発生リスクが低くなることを示す研究がいくつか報告されています。日本人でも同様の傾向があるようですが、大量飲酒はほかのがんのリスクを高めるため、適度の飲酒がすすめられます。

飲酒量が多いと、特に非ホジキンリンパ腫の発生リスクが低下

 リンパ系腫瘍には主に、悪性リンパ腫と形質細胞性骨髄腫があります。悪性リンパ腫は、リンパ系の組織から発生するがんです。大きくは「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に分けられ、日本人には非ホジキンリンパ腫が多くなっています。形質細胞性骨髄腫は、血液細胞の1つである形質細胞のがんで、最も一般的なものに多発性骨髄腫があります。
 欧米では、飲酒とリンパ系腫瘍の発生リスクの関連について、すでにいくつかの研究によって、飲酒量が多いほうが悪性リンパ腫のリスクが低くなることが示されています。そこで、日本の多目的コホート研究(JPHC研究)でも、飲酒とリンパ系腫瘍(悪性リンパ腫、形質細胞性骨髄腫)の発生リスクとの関連について、検討を行いました。

 研究では、平成2(1990)年と平成5(1993)年に、日本各地(分散された特定の地域)の40~69歳の男女約96,000人を対象にし、平成18(2006)年まで追跡調査しました。約14年の追跡調査期間中、257人が悪性リンパ腫(そのうち188人が非ホジキンリンパ腫)、89人が形質細胞性骨髄腫と診断されました。
対象者を、飲酒習慣によって「飲まない(月に1回未満)」グループ、「時々飲む(月に1回から3回)」グループ、さらにそれ以上飲むグループについてはアルコール量で3つのグループに分け、合計5つのグループで悪性リンパ腫と形質細胞性骨髄腫の発生率を比較しました。
 その結果、悪性リンパ腫と形質細胞性骨髄腫を合わせたリンパ系腫瘍発生のリスクは、「時々飲む」グループに比べ、飲酒量が多いグループでリスクが低くなりました。特に、悪性リンパ腫のうち、非ホジキンリンパ腫では、「時々飲む」グループに比べて飲酒量が「最も多い(週当たりの摂取量がエタノール換算300g以上)」グループのリスクが0.47倍と、半分以下に低下していました。
 なお、「エタノール換算300g」とは、日本酒にすると約14合、焼酎にすると8合、泡盛で7合、ビールで大びん14本、ワインでグラス28杯、ウイスキーダブルで14杯となります。

飲酒で顔が赤くならない人で、リンパ系腫瘍の発生リスクが低下

 日本には、欧米に比べて飲酒で顔が赤くなる人が多いことが知られています。そこで、飲酒で顔が赤くならないグループと顔が赤くなるグループに分けて、リンパ系腫瘍の発生リスクを比較しました。すると、顔が赤くならないグループでは、飲酒量が増えるとリスクが低下し、「時々飲む」グループと比べると、飲酒量が「最も多い(週当たりの摂取量がエタノール換算300g以上)」グループのリスクが0.47倍となっていました。一方、顔が赤くなるグループでは、飲酒量が増えてもリスクは変わりませんでした。

 適度なアルコール摂取については、免疫反応やインスリン感受性が改善されることなどが知られています。しかし、今回の研究ではかなりアルコール摂取量が多いグループでリスクの低下が見られ、それらとは別のメカニズムが働いていると考えられます。もともと日本人ではリンパ系腫瘍発生を抑える免疫力が遺伝的に強く、飲酒がその作用をさらに強めているとも考えられます。顔が赤くならない人にのみリンパ系腫瘍発生リスクの低下が見られたことからも、さらに詳しい調査が必要となります。
 なお、リンパ系以外のがんの多くでは、大量の飲酒によって発生リスクが高まることが明らかとなっています。お酒は日本酒換算で1日1合(ビールなら大びん1本、ワインならグラス2杯)程度までに控えておきましょう。

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。