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2条 他人のたばこの煙をできるだけ避ける

2条 他人のたばこの煙をできるだけ避ける

 たばこの煙は、吸っている本人だけでなく周囲の人々にも健康被害をもたらします。たばこを吸わない(非喫煙)女性では、他人のたばこの煙を吸っていると、そうでない女性の約2倍、肺腺がんの発生リスクが増えるというデータがあります。また、閉経前の非喫煙女性では、受動喫煙がある場合、乳がんの発生リスクが2.6倍になるというデータも。たばこを吸わない人は、できるだけたばこの煙を避けて、がんを予防しましょう。

喫煙者の夫を持つ妻は肺腺がんになりやすく、本数が多いほど危険

 家庭内や職場に喫煙者がいれば、自分の意思にかかわらず、受動喫煙(他人のたばこの煙を吸う)の害にさらされます。喫煙者が集まる飲食店や遊技場などでも同様です。
 明らかに受動喫煙のある人とない人では、肺がんの発生リスクがどれくらい違うのかを調査した、日本のコホート研究*1 があります(JPHC Study「受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺がんとの関連について」 参照)。
 これは、非喫煙者の女性約3万人を13年間調査したもので、夫が喫煙者である場合はそうでない場合の1.3倍肺がんになりやすいことがわかりました。
 世界中で行われた55の研究を統合解析して得られたリスクの大きさも約1.3倍であり、受動喫煙により肺がんリスクが高くなることは揺るぎない事実です。

 JPHC Studyでは、肺がんを組織型別に見ていますが、肺の末梢に多くできる腺がんが8割と最も多く、肺腺がんが発生した人のみの解析では、受動喫煙があるグループの肺腺がんの発生リスクが、受動喫煙がないグループの約2倍となっていました。そして、肺腺がんの約37%は夫からの受動喫煙が原因と推計されました。
 また、夫の喫煙の程度で分けて見てみると、夫が非喫煙者である場合の肺腺がんの発生リスクと比較して、夫が過去に喫煙していた場合は1.5倍、夫が喫煙者で吸う本数が1日20本未満の場合は1.73倍、20本以上では2.2倍と、本数が多いグループほどリスクが高いことが示されました。これに、職場など家庭外での受動喫煙が加わると、わずかではあるものの、肺腺がんのリスクがさらに上昇しました。

閉経前の女性は受動喫煙で乳がんの発生リスクが2.6倍に

 肺以外の部位のがんやがん全体に対する受動喫煙の影響についての、日本人を対象とした研究は、まだデータが不十分です。
 ただし、乳がんに関しては、非喫煙の女性を対象とした日本のコホート研究があります(JPHC Study「喫煙・受動喫煙と乳がん発生率との関係について」 参照)。閉経前の非喫煙女性のうち、家庭あるいは職場などの公共の場所での受動喫煙があったグループでは、それらの受動喫煙のないグループよりも、乳がんの発生リスクが2.6倍も高くなっていました。
 また、世界中の19の研究を統合解析して得られた閉経前乳がんのリスクの大きさは、約1.7倍と推定されています。

受動喫煙防止のための環境整備を!

 周囲に喫煙者のいる人、特に喫煙者を夫やパートナーに持つ人は、本人のためにも自分自身のためにも、分煙ではなく禁煙を勧めましょう。
 特に屋内空間での喫煙は、受動喫煙による健康被害が起こりやすくなります。たばこの煙もPM2.5*2 に含まれ、喫煙可能な店のPM2.5濃度は、北京での汚染の程度が高い日と同程度にもなることがわかっています(厚生労働省 e-ヘルスネット「PM2.5と受動喫煙」  参照))。

 世界の多くの国や地域では、公共の場においては法律などで禁止されているのが現状です。いまや日本は、そのような規制がない例外的な国になりつつありますが、受動喫煙を防ぐためには、法規制などによる環境整備が必須です。
 少なくとも、東京でオリンピックが開催される2020年までには、国際社会の一員として恥ずかしくない環境で、外国人をおもてなししたいものです。

*1 コホート研究…数万人以上の特定集団を対象に、まず生活習慣などの調査を行い、その後何年も継続的な追跡調査を行うもの
*2 PM2.5…大気中に浮遊する物質のうち、粒の大きさが2.5μm以下の微小粒子状物質のこと。WHOが発がん性があることを認めている

津金 昌一郎 先生

監修者 津金 昌一郎 先生 (国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長)
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年より国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年に国立がんセンターの独立行政法人への移行に伴い、国立がん研究センター予防研究部長に就任。2013年から現職。1990年にスタートした国立がん研究センターがん研究開発費による研究班(2009年度までは、厚生労働省がん研究補助金による研究班)による大規模疫学研究である多目的コホート研究の主任研究者を務める。2010年朝日がん大賞受賞。一般向けの主な書著に『がんになる人ならない人』『ボリビアにおける日本人移住者の環境と健康』『なぜ、「がん」になるのか?その予防法教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』などがある。昭和大学客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。