文字サイズ

禁煙は歯周病治療の第一歩

禁煙は歯周病治療の第一歩

 喫煙は糖尿病と並んで、歯周病の二大危険因子といわれています。5月31日は「世界禁煙デー」。禁煙は歯周病予防だけでなく全身の健康を守ることにもつながるので、この機会に禁煙にチャレンジしてみませんか。

歯周病が悪化しやすく、治りにくい

 タバコの煙には、ニコチンやタール、一酸化炭素をはじめとする数百種類の有害物質が含まれています。喫煙が、がんや心臓病、脳卒中、高血圧など多くの病気に悪影響を与えることはよく知られていますが、タバコの煙が最初に通る口の中も、その影響を免れることはできません。日本歯周病学会によると、喫煙者は非喫煙者に比べて2~8倍も歯周病にかかりやすいといいます。

【喫煙が歯周組織に与える影響】

  • 毛細血管が収縮して歯肉(歯ぐき)の血流が悪くなり、酸素や栄養が十分に供給されなくなる。
  • 唾液の分泌が少なくなり、う蝕(虫歯)や歯周病の原因菌が増殖しやすくなる。
  • 体の抵抗力が弱まり、傷ついた歯周組織を修復する能力が低下する。
    日本歯周病学会の歯周病分類(2006年)では、喫煙関連歯周炎(periodontitis associated with smoking)と診断します。
    歯肉(歯ぐき)からの出血は、歯周病を発見するサインの一つです。ところが喫煙すると歯肉(歯ぐき)の血流が悪くなるため、歯肉(歯ぐき)が炎症を起こしても出血しにくく、かつ、歯肉(歯ぐき)もメラニン色素が沈着し黒ずむため、炎症反応をわかりづらくし、自覚を遅らせ知らない間に症状が悪化して歯を失う恐れがあります。
    また、喫煙者は歯周病の治療効果が得られにくいことがわかっており、非外科治療、外科治療(歯周組織再生治療,インプラント治療を含む)の経過も思わしくありません。

9本以上歯を失うリスクが、喫煙者は非喫煙者の2倍

 歯周病は成人が歯を失う大きな原因ですが、喫煙者が歯を失うリスクが高いことを裏付けるデータがあります。

 厚生労働省や日本歯科医師会が推進する「8020(ハチマルニイマル)運動」では、高齢になっても自分の歯で不自由なく食事を楽しめるよう、80歳になっても20本以上の歯を保つことを目標にしています。

 国立がん研究センターの多目的コホート研究によると、現在または過去に1日に21本以上タバコを吸う男性が9本以上歯を失う(歯が20本以下になる)リスクは、非喫煙者の約2倍。なかでも過去に31年以上喫煙経験のある人では、非喫煙者に比べて約3倍も歯を失うリスクが高くなるという結果が出ました。
 この調査で、喫煙本数が多いほど、また喫煙年数が長いほど歯を失うリスクが高まる傾向が確認されました。調査対象のなかで女性の喫煙者が少なかったことから、女性に関しては分析を行っていませんが、男性と同様の結果が予想されます。

 喫煙者が歯を失うリスクが高いことは、そのほか国内外のさまざまな調査でも明らかになっていますし、受動喫煙でも歯周病のリスクが高まるという報告もあります。

禁煙後数週間で歯肉(歯ぐき)の血流が改善

 喫煙は歯周病だけでなく、歯の着色や歯肉(歯ぐき)の黒ずみ、口臭も引き起こしますから、お口の健康を守るためには禁煙が欠かせません。禁煙をすると数週間で歯肉(歯ぐき)の血流に改善がみられるなど、歯周病のリスクは確実に軽減します。

 ニコチンには依存性があるため、自力で禁煙するのは難しいかもしれません。そんなときは、ニコチンパッチやニコチンガムなどの市販の禁煙補助薬を使ったり、禁煙外来を受診するとよいでしょう。禁煙外来を設けている歯科医院もあります。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。