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歯周病と骨粗しょう症は一緒に予防することが大切

歯周病と骨粗しょう症は一緒に予防することが大切

お口の健康と骨の健康は、一見関係がなさそうに思えます。しかし、閉経により女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌が減少すると、骨密度が低下して骨粗しょう症を発症するリスクが高まるだけでなく、歯周病も悪化しやすいことがわかってきています。カルシウムの摂取は歯周病予防にも骨粗しょう症予防にもなるので、とくに更年期の女性は積極的にとりましょう。

歯周病は全身の病気と関係がある

歯周病は、歯周病原細菌に感染することで歯周組織に炎症が起こる病気で、糖尿病や動脈硬化、心筋梗塞、肺炎など、全身の病気とかかわりが深いことがわかっています。骨粗しょう症もその一つです。

骨粗しょう症は、骨の量が減ってもろくなり、折れやすくなっている状態、もしくは骨折を起こした状態のことです。骨は常に、古い骨を壊して新しい骨を作り出す「骨代謝」をくり返して強度を保っていますが、骨粗しょう症ではこのバランスが崩れて骨を作る量よりも骨を壊す量の方が多くなり、骨がもろくなってしまいます。

骨密度は20歳頃でピークに達し、その後は年齢とともに少しずつ低下していきます。そのため骨粗しょう症の患者さんは中高年に多く、とくに60歳代以上の女性によくみられます。
女性ホルモンの一種であるエストロゲンには、骨の吸収を抑える働きがあるため、閉経に伴って女性ホルモンの分泌が大幅に減少すると、骨密度も急激に低下してしまうのです。男性も年齢とともに骨密度が低下しますが、女性のような急激な変化はみられません。

骨粗しょう症の原因はほかにも、運動不足、栄養の偏り、お酒の飲み過ぎなどの生活習慣や、喫煙、ステロイド薬などの薬剤、バセドウ病、関節リウマチ、糖尿病といった病気の影響もあります。
骨粗しょう症が進行すると、ちょっと転んだだけでも骨折しやすくなります。高齢者では骨折をきっかけに介護が必要になったり、寝たきりになることが多いため、骨粗しょう症対策は重要です。

エストロゲンの減少が歯周病にも影響

歯周病と骨粗しょう症の関係は1960年代から注目されるようになり、これまでに数々の研究結果が報告されています。
愛知学院大学短期大学部の稲垣幸司教授らの調査では、次のことがわかっています。

  • 閉経後の女性で骨粗しょう症になっている人は、そうでない人に比べて歯周ポケットの出血率が高い、すなわち、歯周病の活動性が高く進行している傾向がある。
  • 閉経後の女性で骨粗しょう症になっている人では、歯を支える歯槽骨の吸収が進んでいる割合が高い。
  • 中指の骨密度の低下が進んでいるほど、残っている歯の数が20本未満である割合が高い。
  • 歯周ポケット内では、T細胞やB細胞の異常、インターロイキン1(interleukin-1、IL-1)、IL-6、IL-8、腫瘍壊死因子(tumor necrotic factor-α、TNF-α)などのサイトカイン、炎症性メディエーターであるプロスタグランジン(PGE2)の異常亢進が起きやすい。

エストロゲンには、骨の破壊だけでなく、歯周組織の炎症を抑える作用もあります。そのため閉経によってエストロゲンの分泌が減少すると、骨粗しょう症に加えて、歯周ポケット内では炎症性の物質(サイトカインなど)が出やすくなり、歯周組織の炎症も進行しやすいと考えられます。
また、歯周組織の炎症が進むと歯槽骨が溶けて歯がぐらつくようになりますが、骨粗しょう症の人では歯槽骨がもろくなっているため、その進行が加速され歯を失うリスクも高まります。

一方、歯周病を治療することで、骨粗しょう症の進行も抑えられる可能性があります。骨粗しょう症のある閉経後の女性を対象にした稲垣教授らの調査では、歯周病の治療により歯周組織の炎症をコントロールできている人は、骨粗しょう症の治療を受けていなくても、骨密度の低下の進行を抑えることができていました。
また、閉経後の女性に対してエストロゲンを補うホルモン補充療法を行うと、全身の骨の状態が改善するとともに、歯槽骨の状態も改善し、歯を失うリスクが低下するというデータもあります。

禁煙やカルシウムの摂取で予防を

骨粗しょう症患者が増える60歳代以降は、歯周病により歯を失う人が増える年代と重なります。とくに閉経後の女性は、歯周病と骨粗しょう症の対策を同時に行うことが大切といえるでしょう。

まず、タバコは歯周病も骨粗しょう症も悪化させるので、タバコを吸っている人はぜひ禁煙を。

そして、毎日の食事も大切です。カルシウムの摂取量が少ないと、歯周病のリスクが高まることがわかっています。カルシウムは骨の材料となり、骨粗しょう症の予防にもなりますから、カルシウムが豊富な牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、小魚などを積極的にとるようにしましょう。
また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDやビタミンKを含む食品も一緒にとりたいものです。ビタミンDはきくらげ、しらす干し、さけ、いわしなど、ビタミンKは納豆、わかめ、春菊、小松菜、ほうれん草などに多く含まれています。

もう一つ注目の栄養素があります。それは、大豆・大豆製品に豊富に含まれるイソフラボンで、体内でエストロゲンに似た働きをします。稲垣教授らの調査では、閉経後の女性がカルシウムと一緒にイソフラボンを摂取したところ、カルシウムだけを摂取したときより、歯槽骨の骨密度の低下や、歯周組織の炎症を抑える効果が高まりました。

歯周病で歯を失うと、食べものを噛む力が衰えて、栄養が偏ったり、食事の量が少なくなる恐れがあります。するとカルシウムなどが不足して骨粗しょう症が悪化するという悪循環を招いてしまいます。
そうならないためにも、歯周病と骨粗しょう症は一緒に予防を心がけるとともに、もし発症した場合は症状が軽いうちに治療するようにしましょう。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。