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大人もできます「歯列矯正」

大人もできます「歯列矯正」

 昔は歯列矯正というと子どもがするものというイメージが強かったのですが、最近では若い女性を中心に、大人になってから歯列矯正を始める人が増えています。歯並びを整えることは、外見的な美しさはもちろん、歯の寿命が延びたり、頭痛や肩こりが改善するなど、健康面でのうれしい効果もあります。

歯列矯正に年齢は関係ない

 理想的な歯並びとは、どのようなものでしょうか。一般的には、歯を噛み合わせたときに上下の前歯の中心の線がそろっている、凹凸やすき間がない、上の前歯が下の前歯に2~3mm重なっている、横から見たときにEライン(鼻先とあご先を結んだ線)の内側に唇が収まっている、などの条件が挙げられます。
 もちろん、歯の大きさや骨格などには個人差がありますから、その人にとって最適な歯並びが、これらの条件に当てはまるとは限りません。

 

 一方、歯並びが不ぞろいで、上下の歯がきちんと噛み合っていない状態を、「不正咬合(こうごう)」といいます。不正咬合は見た目の問題だけでなく、プラーク(歯垢)がたまってう蝕(虫歯)や歯周病になりやすい、食べものが噛みにくく胃腸障害を起こしやすい、歯やあごに負担がかかるなど、健康面にも大きな影響があります。頭痛や肩こり、睡眠障害の原因が、不正咬合にある場合もあります。

不正咬合の例

  • 上顎前突(じょうがくぜんとつ)
    いわゆる「出っ歯」。上の前歯だけが前に飛び出ている場合や、上あご全体が下あごより前に出ている場合がある。
  • 反対咬合
    下の歯が上の歯より前に出ている状態で、「受け口」ともいう。上下のあごの大きさのバランスがよくない場合や、上下の前歯の傾きに問題がある場合がある。
  • 叢生(そうせい)
    歯に対してあごが小さいため、歯が一列に並びきれずに重なって生えている状態で、日本人に多い。一部の歯(犬歯のことが多い)が歯列の外に出ている「八重歯」もこれに含まれる。
  • 開咬(かいこう)
    奥歯は噛み合うが、前歯は噛み合わずにすき間ができる。幼児期の指しゃぶりや、舌で前歯を押すクセ(習癖)などが原因になることがある。
  • 空隙歯列(くうげきしれつ)
    歯と歯の間にすき間がある「すきっ歯」のこと。歯に対してあごが大きかったり、歯の数が少ない場合などに生じる。
  • 過蓋咬合(かがいこうごう)
    上下の前歯の噛み合わせが深く、下の前歯が上の前歯で覆われてほとんど見えない状態。骨格の問題、上の前歯が長い、奥歯が抜けて噛み合わせが変化した、などの原因がある。
  • 顎変形症
    手術が必要なほど上下のあごがずれている状態。日本人には、下あごが上あごに比べて大きく、下あごが突き出ている「下顎前突症(かがくぜんとつしょう)」が多い。この場合は、下あごを切断して後ろに下げるなどの外科的手法を併用した外科矯正治療が行われます。

 これらの不正咬合を専用の装置を用いて治療するのが、「歯列矯正」です。歯肉(歯ぐき)や、歯を支える歯槽骨が健康であれば、中高年でも歯列矯正は可能なので、歯並びが気になっている人は、一度矯正歯科で相談してみるとよいでしょう。

治療期間の目安は1~3年、費用は特殊ケースを除いて、原則全額自己負担

 矯正歯科ではまず、問診、顔や口の写真撮影、あごのX線検査、歯型の作成などを行います。歯並びや歯槽骨の状態、歯とあごのバランスなどを総合的にみて、歯列矯正が可能かどうかを判断し、治療方針を決定します。歯が並ぶ空間を確保するために歯を抜いたほうがよい場合や、あごの骨の手術が必要になる場合もあります。

 治療では、「ブラケット」と呼ばれる専用の装置を1本1本の歯の表面に装着し、ワイヤーやゴムで力を加えることで、少しずつ歯を目的の位置まで移動させていきます。1ヵ月に1回程度通院し、装置やワイヤーの調節を行いますが、歯にかかる圧力で歯が痛み、一時的に硬いものが食べにくくなることがあります。
 ブラケットやワイヤーの周辺には食べかすがたまりやすいので、矯正歯科で適切な歯磨きの仕方について指導を受けましょう。
 ブラケットには金属製のほか、半透明で目立ちにくいプラスチック製やセラミック製のものもあります。また、ブラケットを歯の裏側から装着したり、取り外し可能なマウスピース型の装置を用いる方法などもあります。

 治療の期間は一般的に1~3年ほどですが、もとの歯並びの状態や、装置の種類によっても異なります。歯並びが整ったらブラケットを外し、「リテーナー」という保定装置を装着します。移動したばかりの歯は不安定なので、歯がもとの位置に戻るのを防ぐためです。
 リテーナーは、歯列矯正にかかった期間と同じくらいの期間装着することが多いようです。最初は可能な限り1日中装着し、歯科医師の指示に従い、装着の時間を徐々に短くしていきます。リテーナーを装着している間も、数ヵ月~半年に1回程度通院が必要になります。

 特殊なケース(*)を除いて、歯列矯正に健康保険は適用されず、費用は原則全額自己負担となります。費用は医療機関によって異なりますが、総額で60~100万円ほどが一つの目安のようです。ただし、使用する装置の種類によっても費用に差があるので、治療を始める前にきちんと確認するようにしましょう。費用を分割で支払うことができる医療機関もあります。
(*)特殊なケースとは
  前述の顎変形症では、一部の病院で保険診療の対象となります。また、顎変形症のほかに、厚生労働大臣が指定する23の疾患(唇顎口蓋裂など)に起因するかみ合わせの異常および上あごや下あごの手術なども保険診療の対象となります。

日本矯正歯科学会の「認定医・専門医」が、医療機関選びの一つの目安に

 歯列矯正の治療は長期にわたり、一度治療を始めたら途中で中止することは難しいので、医療機関は慎重に選びたいものです。
 日本矯正歯科学会のホームページで、同学会が一定以上の知識と技術があると認定した「認定医・専門医」を検索することができるので、参考にしてみてください。

 大学病院や矯正歯科専門の医院のほか、一般歯科と矯正歯科が併設されている医院もありますが、矯正歯科の診療日が週に数日しかない場合は、装置が壊れたときなどすぐに対処してもらえるかどうか、事前に確認しておいたほうがよいでしょう。

 また、費用や治療方針などの疑問にわかりやすくていねいに答えてくれるか、といったこともポイントになるでしょう。不安な場合は、ほかの医療機関でセカンドオピニオンを求めることをおすすめします。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。