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歯軋り(ブラキシズム)はなぜ起こるの?

歯軋り(ブラキシズム)はなぜ起こるの?

歯に大きな力がかかる歯軋(ぎし)りを続けていると、歯がすり減ったり、歯周病が悪化する原因になります。歯軋りはストレスや噛み合わせの異常などが影響していると考えられていますが、その原因ははっきりとはわかっていません。しかも、本人の自覚があまりありません。

「キリキリ」と音がしないタイプの歯軋りも

歯軋りというと、睡眠中に「キリキリ」「ギギギ」と音を立てるイメージがあるかもしれませんが、広い意味での歯軋りには次のようなタイプがあります。

  • グラインディング:歯を強くこすり合わせます。「キリキリ」と音がするので、同じ部屋で寝ている人から指摘され、歯軋りをしていることに気づくケースが少なくありません。グラインディングが長期間続くと、次第に歯の表面が磨耗し、噛み合わせにも悪影響が及びます。
  • クレンチング:歯を強く噛みしめます。グラインディングと違って音がほとんどしないので、気づかれにくいですが、起床時に歯や顎の痛みやこわばりがみられたら、クレンチングの可能性があります。その場合、頬や舌にも噛みしめた跡(圧痕)がみられます(図1、2)。噛みしめる力によって、歯が欠けたり、割れたりすることもあります。
    昼間にも、無意識のうちに、くいしばっていることがありますから要注意です。なぜなら、この無意識の口呼吸の持続により、軽く閉じたはずの歯と歯の接触が継続することで、強い過度の噛みしめとなるからです(参考:2011年10月「口呼吸の落とし穴」)。その結果、噛みしめるための筋肉は疲労し、随伴的に、目の疲れ、頭痛、肩こりなどの全身の不定愁訴につながります。
  • タッピング:歯をすばやくカチカチと噛み合わせることで音が鳴ります。ほかの2つのタイプに比べると、発生頻度はそれほど多くないとされます。

これら3つを総称して「歯軋り(ブラキシズム)」といいます。

歯軋りがなぜ起こるのか、原因ははっきりとはわかっていませんが、精神的ストレスや噛み合わせの異常、顎を動かす咀嚼筋(そしゃくきん)の過度の緊張などが影響していると考えられています。

一方、歯の成長過程にある子どもでは、歯軋りによって、乳歯を磨り減らしながら噛み合わせのバランスを図る生理的なものと考えられています。したがって、大人になっても、う蝕(虫歯)や補綴物(かぶせた人工物)のない健全な歯の部分の少しの噛み合わせの異常であれば、歯軋りによって、磨り減らすことで噛み合わせが是正されます。

しかし、補綴物などの異常は少しであっても、補綴物は、健全な歯よりも固いことから、歯軋りによる磨り減らしがうまくいかずに、その歯へのダメージ[補綴物が取れたり、歯が割れたり(歯の破折)、ひびが入ったり(歯の亀裂)]、歯の周囲への影響[骨の膨らみ(骨隆起:図2~4)]や口腔周囲筋群の過緊張の継続、顎関節への過重負担(顎関節症へ)など予想もつかないところにまで悪影響が及びます。

すなわち、睡眠中の歯ぎしりは、本来心身を休めるはずの睡眠中にもかかわらず、全身の筋肉にまで過緊張が継続します。その結果、頭痛、首の痛み、肩こり、腰痛などを引き起こされる可能性があります。

歯の磨耗や知覚過敏、歯周病の悪化の原因に

歯軋りは、睡眠中だけでなく昼間にも無意識に行っています。

歯軋りがなぜ問題かというと、歯や顎に大きな負担がかかるからです。とくに睡眠中の歯軋りでは、大人の場合、歯にかかる力は100kg以上にもなるといわれますが、これは、食事中に歯に加わるよりもはるかに大きな力です。

昼間起きているときに、食事や会話以外で無意識に歯を噛みしめている人も多く、たとえ弱い力でも、長時間歯を噛み合わせていると歯や顎に悪影響があります。

歯が磨耗したり割れたり(歯の亀裂)するほか、楔状欠損(けつじょうけっそん)といって、歯肉(歯ぐき)に近い部分の歯がくさびのような形に欠けてしまったり、冷たいものが歯にしみる知覚過敏が起こることがあります(図4)。

また、歯肉(歯ぐき)や歯槽骨が健康であれば、ある程度の力には耐えられますが、歯周病でこれらが弱くなっている場合は、歯軋りの強い力によってさらに炎症が激しくなり、歯周病が急速に悪化する原因になります。

さらに歯軋りは、顎関節にもダメージを与えて顎関節症の原因になったり、頭痛、肩こり、腰痛、めまいなどを引き起こすことがあります。

以下に示すような所見があれば、歯軋りが疑われます。

【歯軋りが疑われる口腔内所見】

  • 頬や舌の噛みしめた跡(圧痕:図1、2)
  • 骨の膨らみ(骨隆起:図2、3)
  • 歯の付け根付近のくびれ(楔状欠損(*)、くさび状欠損、図4)
  • 歯の表面のひび割れ(亀裂、図4)
  • 知覚過敏

(*)楔状欠損とは、エナメル質とセメント質の境目である歯頸部に発生した欠損のことをいいます。以前は、乱暴な誤ったブラッシングが原因と考えられてきましたが、ブラッシングをしていない部位にも見られることなどから、過度の咬合力によって歯頸部に引張り応力が集中し、歯質の破壊が起きると考えられています。

適切な治療で歯軋りのダメージを防ぐ

歯軋りをしているかもしれないと思ったら、歯科医院や口腔外科で相談してください。まず、根本的な治療としては、原因として考えられる因子があれば、除去します。その因子に噛み合わせの異常があれば、かみ合わせの調整を行います。つまり、噛み合わせの異常部分を削ったり、逆に、磨り減りすぎて足りない場合は、その足りない部分を付け足したりすることで噛み合わせを是正します。

しかし、このような部分的な噛み合わせの調整だけでは是正できないときは、全体的な補綴治療や矯正治療を検討します。その際に、口唇を正しく閉鎖し(参考:2011年10月「口呼吸の落とし穴」)、リラックスする自己暗示療法を同時に行います。

また、歯軋りによる歯の磨耗を防いだり、顎関節への負担を暫間的に軽くするには、「ナイトガード」と呼ばれるマウスピースを装着するのが一般的です。ナイトガードは歯型を取り、患者さん一人ひとりに合わせて作成します。ナイトガードでは、暫間的に歯軋りによる悪影響を防ぐ効果以外に、装着による歯軋りが改善されるかどうかの判定(診断)にもなります。あくまで、ナイトガードは、暫間的な処置になりますから、自己暗示療法と併行して、根本的な治療を受けてください。

昼間の噛みしめは、仕事や勉強など、何かに集中しているときに起こりやすくなります。噛みしめに気づいたら、口唇を正しく閉鎖し深呼吸をしてリラックスしましょう。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。