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フッ化物とキシリトールのう蝕(虫歯)予防効果

フッ化物とキシリトールのう蝕(虫歯)予防効果

 フッ化物(フッ素)とキシリトールは、どちらもう蝕(虫歯)予防に効果的とされています。フッ化物には歯質を強化する作用が、キシリトールには歯の再石灰化を促したり、う蝕(虫歯)の原因菌の増殖を抑える働きがあります。毎日の歯磨きに加えて、これらを上手に利用しましょう。

フッ化物で歯のエナメル質が酸に溶けにくくなる

 歯の表面のエナメル質は、う蝕(虫歯)の原因菌が作り出す酸によってカルシウムが溶け出す「脱灰(だっかい)」と、唾液中のカルシウムが再び取り込まれる「再石灰化」を、絶えずくり返しています。脱灰と再石灰化のバランスが崩れて再石灰化が追いつかなくなると、エナメル質が溶け出してう蝕(虫歯)になってしまいます。

そこで役立つのが、フッ化物です。フッ化物が歯の表面のエナメル質に作用すると歯質が強化され、エナメル質が酸に溶けにくくなるのです(「フッ素(Fluorine)」は元素名で、フッ素とほかの元素や原子団から構成される化合物は、「フッ化物(Fluoride)」と呼ぶ)。歯科の臨床で多用されるフッ化ナトリウム(NaF, Sodium Fluoride)は、ナトリウムとのフッ化物になります。フッ化物は、う蝕(虫歯)の原因菌が酸を作り出すのを抑制する働きもあります(表1)。

表1 フッ素のう蝕(虫歯)抑制作用

歯面に対して 歯質の強化(耐酸性の向上、結晶性の向上、再石灰化の促進)
う蝕(虫歯)の原因菌に対して 細菌の酸産生抑制

フッ化物の応用法

 フッ化物は多くの歯磨き剤に含まれていますし、歯科医院で塗布してもらうこともできます。また、保育所や幼稚園、小中学校などにおいて、フッ化物を含んだ水で“ブクブクうがい(フッ化物洗口)”を行っている自治体もあります。歯科医師の指導の下、家庭でフッ化物洗口を行うこともできます(表2)。

表2 フッ化物の応用法

局所応用 フッ化物(フッ化ナトリウム)歯面塗布 保健所や歯科医院などでのフッ素塗布
フッ化物配合歯磨剤(モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一スズ) 日常的な歯磨きに、適量のフッ化物配合歯磨剤を使う方法
フッ化物(フッ化ナトリウム溶液)洗口 保育園や幼稚園、または小中学校でフッ素水溶液でぶくぶくうがい
全身応用 水道水フロリデーション* 飲料水中に存在するフッ化物の量を適正な濃度(1ppm以下)に調整し、その飲料水を摂取することによって虫歯を予防する方法

* 水道水フロリデーションの安全性および効果については、飲料水中フッ化物濃度が1ppm以下であれば歯のフッ素症の流行がなく、また、1ppm前後のフッ化物を含む飲料水は、虫歯の発生を大きく抑制するという結論が出され、世界保健機関(WHO)、米国疾病コントロール・予防センター(CDC)および世界中の各国歯科医師会など、国際的あるいは国家的な専門機関が保証しており、その普及を支持しています。
 日本では、京都市山科地区(1952~1965年)、沖縄県(1957~73年)や三重県朝日町(1967~72年)でも実施されていました。しかし、現在ではまだ実施に至っていません。

 『フッ化物洗口ガイドライン』(厚生労働省、2003年)によると、フッ化物洗口はとくに4歳から14歳までの期間に実施することが効果的とされます。歯は生えてから2~3年が最もう蝕(虫歯)になりやすいため、永久歯が生える前から、第二大臼歯(親知らずの手前の歯)が生えて数年たったころまで継続してフッ化物洗口を行うことで、う蝕(虫歯)の予防効果が高まるのです。大人でも、歯と歯の間や、歯の根元にできるう蝕(虫歯)の予防に役立つとされています。

 なお、歯のフッ素症(dental fluorosis, 原因を示す名称、斑状歯:はんじょうし、症状を示す名称)といって、永久歯のエナメル質が形成される子どものころ(6ヵ月から5歳まで)にフッ化物を過剰に摂取すると、永久歯に白い斑点やしみができることがあります。したがって、すでに歯の石灰化がほぼ終わっている6歳以降なら、過剰にフッ素を摂取しても斑状歯は起こりません。フッ化物が含まれる水を長年にわたり飲み続けた場合に生じる恐れがありますが、歯磨き剤に含まれるフッ化物はわずかな量なので、毎日使用しても問題はありません。フッ化物洗口も、洗口剤の用法・用量を守って行えば心配ありません。

キシリトールは、う蝕(虫歯)の発生・進行を防ぐ

 ガムやタブレットでおなじみのキシリトールは、糖アルコールと呼ばれる天然甘味料の一種で、砂糖と同じくらいの甘みを持ち、溶解する時に熱を吸収するため、清涼感のある味質です。多くの野菜や果物に含まれるほか、人の肝臓でも1日に15gほど作られていますが、ガムやタブレットなどに含まれるキシリトールは、白樺や樫(かし)などから抽出される成分が原料となっています。

 う蝕(虫歯)の原因菌は、食べ物に含まれる糖を分解して酸を発生させ、酸性となり歯を溶かします。「甘いものを食べるとう蝕(虫歯)になりやすくなる」といわれるのはそのためですが、ではなぜ、甘味料であるキシリトールが、「歯によい」とされるのでしょうか?

 一つは、う蝕(虫歯)の原因にならないこと。すなわち、キシリトールは、う蝕(虫歯)の原因菌が分解することができない構造をしているため、摂取しても酸が発生しません。エネルギーを使ってキシリトールを菌体内に取り込みますが利用できないために菌体外に捨て、再びエネルギーを使って取り込むことでエネルギーの無駄使いを繰り返します。これを無益回路といいます。この作用によりキシリトールはう蝕(虫歯)の原因菌の増殖や歯垢(プラーク)の形成を部分的に抑えます。また、キシリトールはカルシウムと結合して輸送することにより、歯の修復(再石灰化)も促し、歯垢(プラーク)を歯に付着しにくくします。またほかの糖アルコールと同様に、口に入れると味覚が刺激され唾液分泌を促進し緩衝(中和)作用もあります。吸収速度も遅いため、血糖値の急上昇がなく、代謝するのにインスリンを必要としないので、糖尿病の人が摂取しても心配ありません。
 キシリトールは、厚生労働省より食品添加物として認可されているほか、世界保健機関(WHO)、や国連食糧農業機関(FAO)もその効果を認めています。

キシリトール配合のガムやタブレットの利用法

 キシリトールが含まれている商品はいろいろありますが、う蝕(虫歯)予防のために用いる場合は、シュガーレスで、キシリトールが50%以上配合されているガムやタブレットを選びましょう。ガムは、噛むことで唾液の分泌を促す効果も期待できます。
 キシリトール配合のガムやタブレット5~10gを毎食後1日3回、3ヵ月以上摂取すると、う蝕(虫歯)になりにくい状態になるとされます。しかし、キシリトール配合であっても砂糖や水飴など糖類が含まれていることがあり、また、プラーク自体を取り除くわけではありません。

過信は禁物です!

 注意が必要なのは、フッ化物を使ったり、キシリトールを取ったりするだけで、う蝕(虫歯)を予防できるわけではないということです。このような誤った認識をもち続けることはたいへん危険です。う蝕(虫歯)予防の基本は、規則正しい食生活の上での毎日の正しい歯磨きと定期的な歯科医院でのケアです。フッ化物やキシリトールはそれらを補助するものであること(予防の1つの選択肢)を、忘れないようにしましょう。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。