文字サイズ

歯垢(デンタルプラーク)の正体は?

歯垢(デンタルプラーク)の正体は?

歯の表面に付着した白くてネバネバした歯垢(デンタルプラーク)は細菌のかたまりで、う蝕(虫歯)や歯周病の原因となります。毎日の歯磨きで歯垢をしっかり取り除きましょう。

歯垢はう蝕(虫歯)や歯周病を招く細菌のすみか

多くの人が、「歯垢(しこう:デンタルプラーク)」という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。歯垢は、細菌の集合体である「バイオフィルム(biofilm)」の一種。歯の表面に付着する白色や黄白色のネバネバした物質で、口の中の細菌やその産生物などからできています。口の中には、歯の表面だけでなく、歯周ポケット内、舌、口蓋や頬粘膜、さらに鼻腔や咽頭を含めると700種類を超える細菌が棲みついています。さらに、歯垢1mg中の細菌の数は、1億個とも10億個ともいわれています。

口の中の細菌のうち、う蝕(虫歯)を引き起こす細菌種の1/3はレンサ球菌。その代表がミュータンスレンサ球菌です。ミュータンスレンサ球菌は、食べものに含まれる糖分を分解して、乳酸を主とする酸を産生(乳酸発酵)し、さらに、水に溶けにくいネバネバした「グルカン」という物質を作り出し、歯の表面にくっつきます。この非水溶性グルカンをすみかにさまざまな細菌が増殖して、歯垢を形成します。

歯垢は、歯肉(歯ぐき)のふちより上の歯冠部に付着する「歯肉縁上(しにくえんじょう)プラーク」と、歯と歯肉の境目である歯周ポケット内に付着する「歯肉縁下(しにくえんか)プラーク」に分けられます。歯肉縁上プラークには、う蝕(虫歯)の原因菌や歯石を形成する細菌などが含まれ、歯肉縁下プラーク中の細菌は、酸素を嫌う嫌気性桿菌(けんきせいかんきん)やスピロヘータと呼ばれる菌等が増えています(歯周病関連細菌、歯周病原細菌)。歯肉縁下プラークは、歯周炎の原因となり、以下に示す4種類からなります(図)。すなわち、1.歯周ポケット内に浮遊した細菌群(浮遊性プラーク)、2.浮遊性プラークが根面にへばりついた歯面付着性プラーク、やがて石灰化して歯石に、3.浮遊性プラークが歯周ポケット内の上皮にへばりついた上皮付着性プラーク、4.歯周ポケット内の上皮下結合組織内に侵入した結合組織内侵入プラークになります。

歯垢の中のう蝕(虫歯)の原因菌は、食品の糖分を栄養源に酸を作り出し、歯の表面のエナメル質を溶かします。これがう蝕(虫歯)です。
また、歯と歯肉の境目に歯垢がたまると、その中の歯周病菌が出す毒素によって歯肉に炎症が起き、歯周ポケットが深くなります。歯肉縁下プラークによる炎症が起こると、感染から防御して、治癒促進するために、生体は、毒素を破壊する抗体や白血球などの防御反応を起こして、歯周炎をくい止めようとします。しかし、このような炎症反応が停滞して繰り返されると、歯周ポケットの奥深くへと進んでいくので、生体は、歯槽骨を感染から避難させます。すなわち、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)の吸収が進んでいきます。そのため歯周病を放置すると、歯がグラグラしたり、歯が移動したり(歯の病的移動)、歯肉から膿(うみ)が出たりして、やがて歯が抜けてしまいます。

歯に付着した歯垢を放置すると、唾液の中のカルシウムなどと結びついて石灰化し、「歯石」になります。個人差がありますが、歯垢は2週間程度で歯石になるといわれています。
歯石も、歯垢と同じように、付着する部分によって「歯肉縁上歯石」と「歯肉縁下歯石」に分かれます。歯肉縁上歯石は白色や黄白色で比較的やわらかく、歯肉縁下歯石は黒褐色でとても硬いのが特徴です(写真)。
歯石は、う蝕(虫歯)の直接的な原因にはならないとされます。しかし、表面がザラザラしているため、その上に歯垢がたまりやすく、細菌が増殖して歯周病を進行させる要因になります。

毎日の歯磨きで取り除くとともに、定期的にプロの手によるお手入れを

粘着性のある歯垢は、うがいをした程度では取り除くことができません。したがって、う蝕(虫歯)や歯周病を予防するためには、歯磨きで歯垢を除去することが大切です。
歯ブラシの毛先が届きにくい歯と歯の間、奥歯の噛み合わせ、歯と歯肉の境目などは、磨き残しやすい部分です。歯ブラシに加えて、歯間部清掃用具である歯間ブラシやデンタルフロスを使用して、きちんと歯垢を除去しましょう。

歯垢が石灰化した歯石は、歯に強く付着しており、歯磨きで取り除くことはできません。また、毎日歯磨きをしていても、落としきれなかった歯垢が少しずつたまっていくので、定期的に歯科医院を受診してプロに除去してもらいましょう。もちろん、歯磨きで歯垢をコントロールして、歯石にならない(沈着させない)ようにすることが大切です。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。