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5月31日はWHO世界禁煙デー! 歯科で行う禁煙支援

5月31日はWHO世界禁煙デー! 歯科で行う禁煙支援

 喫煙はがんや呼吸器系の病気、生活習慣病などの病気のリスクを高めるだけでなく、口腔がんは、もちろんですが、他に歯周病やう蝕(虫歯)、口臭など、お口の健康にも悪影響を与えます。口腔(お口)は、喫煙の影響を最初に受け、かつ、ニヤッと笑えば直接観察できる部位。口腔(お口)の専門家である歯科医師や歯科衛生士が禁煙支援を行う取り組みが広がりつつあります。5月31日はWHO世界禁煙デー! 今年のスローガンは、「タバコ税を上げよう! (raise taxes on tobacco)」です。

タバコの害は全身に及び、喫煙者だけでなく周囲の人も危険にさらす

 これまで、「禁煙は歯周病治療の第一歩」 「タバコはお口の健康に悪影響(健康障害)を及ぼす」で紹介してきたとおり、タバコは歯周病や口腔がん、口臭など、口腔(お口)の健康をむしばみます。また、肺がんをはじめとするさまざまながん、脳卒中、心臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ぜん息などとも深いかかわりがあることや、妊娠・出産にも悪影響を及ぼすことがわかっています(図1)。
タバコにはニコチン、タール、一酸化炭素など、約4,000種類の化学物質が含まれ、およそ200種類の有害物質、約70種類の発がん物質が含まれており、タバコを吸っている本人だけでなく、周囲の人も受動喫煙によって健康をむしばまれてしまいます(図2)。さらに「サードハンド・スモーク(三次喫煙)*」といって、タバコの火を消した後でも、衣類や壁、カーテン、家具などに付着したタバコの残留成分が揮発し、その吸引によって健康障害が起こるということがわかってきました。

 タバコの煙成分が家財道具などにしみ込み残留し、煙が消失した後も、有害な化学物質が揮発、放出し、それによって健康障害やDNAの損傷を受ける可能性があります。「サードハンドスモーク」は2009年1月、米国小児科学会誌に掲載された米マサチューセッツ総合病院の小児科医らが執筆した論文で初めて用いられました。なお、壁や床、喫煙者の衣服などに付着したニコチンは、大気中の亜硝酸と反応すると、発がん性の高いニトロソアミンに変化します。目の前で吸わなくても、喫煙場所や喫煙者からの三次喫煙は防げないのです。

 う蝕(虫歯)や歯周病などを治療する歯科医が禁煙支援を行うと聞いても、ピンと来ない人がいるかもしれません。しかし、「お口の中のプロ」である歯科医師や歯科衛生士が禁煙支援に取り組むのには、理由があります。

口の中はタバコの影響を直接観察できる

 平成23年患者調査によると、傷病の総患者数は、「高血圧性疾患」906万7,000人、「糖尿病」270万人、「歯肉炎及び歯周疾患」265万7,000人、「う蝕(虫歯)」194万5,000人、「脂質代謝異常(高脂血症)」188万6,000人の順で、う蝕(虫歯)や歯周病などの歯の病気に罹患している人が多いことがわかります。
次に、病気やけがで医療機関に通院している人の人口1,000人当たりの割合(「通院者率」という)を男女別にみると、男性は第1位「高血圧症」100.0、第2位「歯の病気」49.4、第3位「糖尿病」48.3、女性は第1位「高血圧症」105.7、第2位「脂質異常症(高脂血症)」58.3、第3位「歯の病気」58.1となっています(厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」)
したがって、う蝕(虫歯)や歯周病などの歯の病気で通院している人も、実はとても多いのです。その中には、タバコを吸っている人や、受動喫煙によって健康障害を受けている人も含まれていることが十分に考えられますから、病院歯科や歯科医院であれば多くの人を対象に禁煙支援を行うことができます。しかも、現時点では、病院歯科や歯科医院での禁煙支援は、予想外のことであり、逆に、この段階での禁煙支援は重要な意味をもちます。すなわち、肺がんなど致命的な疾患になる前の段階で歯科に通院している可能性があり、より早い段階での禁煙支援は歯科疾患の改善プラスいろいろな喫煙関連疾患になる前に手を差しのべることになります。そして、禁煙に成功すれば、その個人のいろいろな病気の大きな原因の1つがなくなります。しかし、それだけではありません。周囲への受動喫煙,三次喫煙のリスクもなくなってしまうので、その波及効果は予想以上に大きいのです。このような病気の原因は他にはありません。また、たとえうまくいかなくても、失うものはなにもありません。もともと、禁煙を希望していたわけではありませんから。

 口の中は、タバコを吸ったときに煙が最初に到達するところです。喫煙や受動喫煙による健康被害は全身に及びますが、口の中は、ほかの臓器などと異なり、その異変を目で見て発見しやすいという特徴があります。
 例えば、喫煙者の歯肉(歯ぐき)はメラニン色素が沈着して黒ずんでいること(図3)が多いのですが、親が喫煙していると、受動喫煙によって子どもの歯肉にもメラニン色素沈着が高い割合でみられることがわかっています(図4)。
 口の中を診察する歯科医師や歯科衛生士は、いち早くその異変に気づき、患者さんにタバコの悪影響を説明したり、禁煙の方法をアドバイスするなど、禁煙に結びつけることが可能です。禁煙外来を設けている歯科医院もありますが、そうでない場合は、必要に応じて医科の禁煙外来を紹介することもあります。家族ぐるみで通院している歯科医院であれば、家族を通じて喫煙者をフォローすることも可能でしょう。

 禁煙支援に取り組む病院歯科や歯科医院は増えてきています。歯科医院を受診して歯科医や歯科衛生士から禁煙をすすめられたら、ぜひ、話に耳を傾けてみてください。禁煙の第一歩を踏み出して、あなた自身のお口や全身の健康、そして身近な人の健康を守りましょう。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。