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歯肉の黒ずみ(歯肉メラニン色素沈着)が気になったら

歯肉の黒ずみ(歯肉メラニン色素沈着)が気になったら

 喫煙や受動喫煙などの影響で歯肉(歯ぐき)が黒ずむ(歯肉メラニン色素沈着)ことがありますが、本人は気づかなくても笑ったときなどに意外と目立つものです。原因となる喫煙や受動喫煙を除き、薬剤や歯周外科処置(高周波電気メス、レーザー照射)による治療などで、健康なピンク色の歯肉を取り戻せる場合があるので、歯科医院で相談してみましょう。

健康な歯肉はピンク色

 個人差や年齢によっても差はありますが、一般的に、健康な歯肉は淡いピンク色をしています(図1a)。「そういえば最近、歯肉が黒ずん(歯肉メラニン色素沈着)できた」という人は、一度、歯科医院で相談してみましょう。治療により改善できる可能性があります(図2b~d)。
 歯肉の黒ずみ(歯肉メラニン色素沈着)の主な原因として、「喫煙」「受動喫煙」「歯周病」「口呼吸」「人種(図3)」「金属の埋入(図4a)」「紫外線」などが考えられます。

図1 歯肉のメラニン色素沈着
a: 21歳女性 健康な歯周組織
b: 58歳男性、歯肉メラニン色素沈着は著しく、長年の喫煙の影響で歯周炎は進行しています。
 ■喫煙関連所見:
  ・ブリンクマン指数 570(1日15本、20歳~58歳)
  ・FTND (Fagerstrom Test for Nicotine Dependence) 5点
  ・加濃式社会的ニコチン依存度 (Kano Test for Social Nicotine Dependence, KTSND) 16点
 ■喫煙関連疾患:脳梗塞の既往、坐骨神経痛、高血圧症
c: 歯周基本治療時に、禁煙し、1年後の口腔内写真 歯肉メラニン色素沈着は徐々に消失してきています。
d: 9年後の口腔内写真 歯肉メラニン色素沈着は、ほとんど消失しています。
図2 治療で改善した歯肉のメラニン色素沈着

10歳女児で、歯列不正の改善を主訴に矯正歯科に来院しました(a)。父親の喫煙に起因すると思われる歯肉メラニン色素沈着がみられていました(1992年5月)。矯正治療後、歯肉の形態異常の改善を訴えていました(23歳、2005年3月、b)。歯肉の形態異常に対する歯肉整形術と受動喫煙に起因すると思われる歯肉メラニン色素沈着の切除を高周波電気メスで行いました。病理組織学的には、上皮が錯角化し、基底細胞にメラニン色素の過剰沈着(青矢印)が観察されました。術後1か月後の口腔内写真です(c)。メラニン色素が消失し、生理的な歯肉形態が確立されました。さらに、術後約1年後の口腔内写真で、生理的歯周組織が維持されています(d)。

図3 歯肉のメラニン色素沈着の人種による違い
a: 34歳女性 アフリカン系米国人 非喫煙者 主訴:臼歯部歯肉からの出血
b: 37歳男性 ヒスパニック系米国人 非喫煙者 主訴:上顎歯肉の腫脹

タバコが原因の黒ずみは、まず禁煙

 日焼けしたときに皮膚が黒くなるのは、紫外線の害から守るためにメラニン色素が作られるから。同じように、タバコを吸うと、ニコチンやタールなどの有害物質から歯肉を守るためにメラニン色素が作られ、歯肉が黒ずむ(歯肉メラニン色素沈着)といわれています。また、タールが歯肉に付着したり、歯肉の血流が悪化することも、歯肉の色の変化に影響を及ぼします。
 歯肉の黒ずみ(歯肉メラニン色素沈着)は喫煙者本人だけでなく、受動喫煙でも起こることがあります(図2a、b)。(参考:5月31日はWHO世界禁煙デー! 歯科で行う禁煙支援

 喫煙による歯肉の黒ずみ(歯肉メラニン色素沈着)を改善するには、まず、禁煙することが大切です。時間はかかりますが、少しずつ本来の歯肉の色に戻っていきます(図1c、d)。それでも黒ずみ(歯肉メラニン色素沈着)が気になるようなら、歯科医院で相談を。歯肉に漂白効果のある薬剤を塗ったり、歯周外科処置(高周波電気メス、レーザー照射)で改善が可能です(図2)。

歯周病による歯肉の色の変化は早めに対処を

 歯周病は、歯周病関連細菌の感染によって歯肉に炎症が起こり、やがて歯を支える歯槽骨まで破壊されてしまう病気です。初期の段階では歯肉が赤く腫れますが、炎症が進行すると、歯肉が赤紫色になったり、黒ずんだりします。放置すると歯がグラグラするようになり、最終的には歯が抜けてしまうので、早めに歯科医院を受診しましょう。治療によって歯肉の炎症が治まれば、ピンク色の歯肉に戻ります。

溶け出した金属で歯肉が黒ずむ「メタルタトゥー」

 歯冠継続歯(差し歯)や被覆冠(被せもの)などに使われている歯科用金属がイオン化して溶け出したり、歯の型を取るための歯の形成時、特に、歯肉に炎症があると歯周組織に削除した金属片が埋入して歯肉が黒ずむ(歯肉メラニン色素沈着)ことがあります(図4a)。これを「メタルタトゥー(金属の入れ墨)」といい、差し歯や被せものなどに接触している歯肉の縁だけ黒ずむのが特徴です。
 金属イオンが歯肉の奥まで浸透しているため、メタルタトゥーが自然に回復することはありません。歯肉や深く埋入した変色部分を切除しなければならない場合もあります(図4b)。
 メタルタトゥーは、歯冠継続歯(差し歯)や被覆冠(被せもの)などを、金属を含まない素材(オールセラミック製など)にすることで防ぐことができます。

図4 歯肉のメラニン色素沈着(メタルタトゥー)
a: 20歳女性 13歳頃の下顎中切歯の被覆冠(被せもの) のための歯の形成時に金属片が埋入したものと思われました。病理組織学的には、金属片が上皮下の結合組織(青矢印)、一部、骨内にまで埋入が観察されました。
b: 埋入した金属片を含んだ周囲歯周組織を切除し、4年後の口腔内写真です。歯頚部に軽度の歯肉炎症はみられますが、歯肉のメラニン色素沈着は消失しています。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。