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女性に多い、歯肉がはがれる病気!「慢性剥離性歯肉炎」とは!

女性に多い、歯肉がはがれる病気!「慢性剥離性歯肉炎」とは!

皮膚疾患の症状として、お口の中、特に歯肉(歯ぐき)に限局して、易出血性の剥離性病変や潰瘍(歯肉がはがれて、ただれて、出血しやすい状態)が現れることがあります。以前は、歯肉の特徴的な臨床像から、「慢性剥離性(はくりせい)歯肉炎」と診断されていた病態ですが、現在では、その多くが皮膚疾患に起因することが明らかになっています。女性に多く、再発しやすく、治療の難しい病気です。

歯肉の表面がはがれて、重症の場合は強い痛みを伴う

一般的なプラーク性歯肉炎の場合、歯と歯肉の境目に歯垢(プラーク)が付着して、歯肉に炎症が起こります。歯肉は赤く腫れ、歯を磨いたときに出血することがありますが、痛みはありません(参考:歯周病対策は、若い世代から早めに対策を!)。

「慢性剥離性歯肉炎」が最初に報告されたのは1894年で、症候群としての病態は、1932年から用いられてきました。原因は不明で、ほとんどの患者さんが、40~50歳代の女性であったことから、ホルモンの変調が疑われていました。その後、「慢性剥離性歯肉炎」は、それ自身が独立した疾患ではなく、全身状態に関連した歯周組織、特に、歯肉の応答であると考えられるようになりました。さらに、1995年の報告では、「慢性剥離性歯肉炎」のおよそ75%が皮膚疾患に起因し、その95%以上が、類天疱瘡(るいてんぽうそう)と扁平苔癬(へんぺいたいせん)であることが明らかになっています。

2006年の日本歯周病学会の歯周病分類では、歯肉病変として、前述のプラーク性歯肉炎、非プラーク性歯肉病変、歯肉増殖に分けられています(表1)。その中で、「慢性剥離性歯肉炎」は、「粘膜皮膚病変(各病名)に起因する非プラーク性歯肉病変」に該当します。

症状は、無症候の場合もありますが、症状のある場合は、本人の抵抗性との兼ね合いで、軽い灼熱感から激痛まで幅広い点が特徴です。すなわち、歯肉の表面の薄い皮(上皮)がはがれ落ち、その下の組織が露出した状態で、歯肉の表面が赤くつるつるとして見えます。頬側や唇側の歯肉に起こることが多く、一部分に限定していることもあれば、口の中全体に及ぶこともあります。

症状が軽い場合は歯肉が赤くなる程度で、痛みはほとんどありませんが、中等度になると、歯肉に水ぶくれができたり、ヒリヒリと痛んだりします。さらに症状が進んで重症になると、歯肉がただれたようになり、歯磨きや食事の刺激で歯肉から出血したり、激しく痛むようになります。

表1 病原因子による非プラーク性歯肉病変の分類

  • プラーク細菌以外の感染による歯肉病変
    【1】 特殊な細菌感染によるもの
    【2】 ウイルス感染によるもの
    【3】 真菌感染によるもの
  • 粘膜皮膚病変
    【1】 扁平苔癬
    【2】 類天疱瘡
    【3】 尋常性天疱瘡
    【4】 エリテマトーデス
    【5】 その他
  • アレルギー反応
  • 外傷性病変

良くなったり悪くなったりを繰り返す

慢性剥離性歯肉炎は、症状が良くなったり悪くなったりを長期にわたって繰り返すことが多く、治療がとても難しい病気です。まず、大切なのは、口の中を清潔に保つこと。痛みが強い場合は、やわらかめの歯ブラシや小歯ブラシを使うとよいでしょう。図1に尋常性天疱瘡に起因する非プラーク性歯肉病変と診断した症例の治療経過(図2~5)、図6に扁平苔癬に起因する非プラーク性歯肉病変と診断した症例の治療経過(図7~9)を示しました。図1の症例で、金属アレルギーについては、イヤリングによる掻痒感(そうようかん)を訴えていたため、口腔内金属に起因するアレルギーを疑い、某病院皮膚科に精査を依頼しました。陶材、アマルガム、コンポジットレジン、パラジウム合金、リン酸セメントに対するパッチテストの結果、コンポジットレジンに軽度の発赤を認めましたが、口腔内金属には陰性でした。また、細胞診では、少数の異常角化細胞を認めましたが、真菌は検出されず、一般血液生化学検査で特記すべき異常所見はみられませんでした。

また、歯科医院では、症状を軽減するために、必要に応じてステロイドホルモン薬や抗菌薬の塗り薬が処方されます。再発を繰り返す場合や補綴処置等が装着される部位は、患部に、上顎口蓋側の罹患していない歯肉を移植する治療(図10)が行われることもあります。

尋常性天疱瘡に起因する非プラーク性歯肉病変症例

【図1】56歳女性:54歳頃、歯肉出血が顕著となり、近在の歯科医院を受診し、口腔清掃指導などの処置を受けました。他に数件の歯科医院をまわりましたが、同症状は改善されないため、某病院歯科口腔外科を受診しました。血液検査などに異常はなく、同皮膚科に紹介されました。皮膚所見はみられませんでしたが、副腎皮質ステロイドホルモン剤(プレドニン内服)により歯肉出血は改善されました。しかし、プレドニン減量により再発し、副作用により、根治療法の依頼を受け、本学附属病院歯周病科を訪れました。

【図2】歯周基本治療を開始して、約1か月後の口腔内所見です。徹底した口腔清掃に伴い、辺縁歯肉の急性炎症は消退し、角化歯周組織に戻りはじめました。

【図4】歯周基本治療後の口腔内写真(初診から3年後、a)とその後、う蝕の処置、上顎左側犬歯、小臼歯部の補綴処置後のメインテナンス時の口腔内写真(初診から14年後、b)です。長期にわたり、歯周組織の健康が維持されています。

【図5】初診時(内側)とメインテナンス時の口腔内写真(外側、14年後)を比較しました。長期にわたり、歯周組織の健康が維持されています。

扁平苔癬に起因する非プラーク性歯肉病変症例

【図6】26歳女性:22歳頃、上顎前歯部の歯肉の発赤を自覚し、市販外用薬を貼付していましたが、改善しないため近在の歯科医院を受診しました。同症状の改善傾向がみられず、全顎的に波及してきたため、紹介を受け、23歳時に本学附属病院口腔外科を訪れました。その後、長期海外滞在などで治療は中断していました。しかし、同症状に加えて、出血やブラッシング時の疼痛を自覚するようになり、再度紹介を受け本学附属病院歯周病科を訪れました。

【図7】ピアス穿孔部の掻痒感と同部の発赤を訴えていました。また、頚部に掻痒感を伴う丘疹を認めました。

【図8】歯肉歯槽粘膜部(上顎右側小臼歯部)から剥離性病変を採取し、病理組織学的に検討しました。上皮の大部分は剥離し、残存する上皮下にはリンパ球浸潤が認められ、扁平苔癬と診断されました(HE染色)。(病理診断は、本学歯学部口腔病理学講座 前田初彦先生による)

【図9】初診時(a)と歯周基本治療中(2年後、b)の口腔内写真です。適切な口腔清掃により、辺縁歯肉の病変は徐々に改善されてきています。すなわち、口腔清掃が容易で、比較的疼痛の少ない、下顎左側の前歯から臼歯部(矢印、b)にかけては、正常な辺縁歯肉に回復してきています。

【図10】69歳女性:67歳頃、上下顎前歯部の歯肉の発赤や出血を自覚し、歯科医院で治療を行うも改善しないため紹介を受け、本学附属病院歯周病科を訪れました(a)。歯周基本治療を開始しましたが、顕著な改善も見られていません。しかし、下顎左側臼歯部の義歯作成にあたり、同小臼歯部の頬側部への維持装置の設定が必要になりました。そこで、角化歯肉獲得のため、同部に、歯肉遊離移植術(矢印、b)を行い、義歯を装着しました。

稲垣 幸司 先生

監修者 稲垣 幸司 先生 (愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授 同大学歯学部歯周病学講座兼担准教授)
愛知学院大学歯学部卒業 同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。愛知学院大学歯学部助教授、2007年より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会専門医、子どもをタバコから守る会・愛知世話人代表、禁煙心理学研究会世話人、日本小児禁煙研究会理事。アメリカ歯周病学会、国際歯科研究学会、日本歯周病学会、日本禁煙学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科衛生学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗鬆症や糖尿病との関係や脱タバコ教育、禁煙支援に関する研究などを行う。