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何でもよく噛んで食べられますか? 全身の健康を左右する「噛む力」

何でもよく噛んで食べられますか? 全身の健康を左右する「噛む力」

毎日の食事をよく噛めていますか。むし歯や歯周病をそのままにしていたり、歯が抜けたままになっていたりすると、食べ物を十分に噛めないのはもちろん、食べるものも偏りがちになります。そんな生活を続けていると、「食べる」にとどまらず、全身の不調を招いてしまう恐れもあります。よく噛むことや「噛む力」を見直してみましょう。

特定健診の質問票に「噛む力」が追加、噛めないと野菜が減り、脂質が増加

食事の際に、よく噛むか噛まないかが全身の健康に影響を及ぼすことが明らかになってきました。これを受けて平成30年度から、特定健診(特定健康診査、通称メタボ健診)での「質問票」に、よく噛む習慣に関する項目が加わりました。

質問票では、「食事を噛んで食べるときの状態はどれにあてはまりますか」との問いに、「何でも噛んで食べることができる」「歯や歯ぐき、かみ合わせなど、気になる部分があり、噛みにくいことがある」「ほとんど噛めない」のなかから答えるようになっています。

厚生労働省の解説によると、何でも噛んで食べられると、栄養バランスよく食事をとることができるだけでなく、唾液の分泌量が増加するため、消化吸収の促進、味覚の増進などにも有効、とのことです。

しかし、むし歯や歯周病、歯の喪失、それ以外の歯・口腔にかかわる病気などにより、咀嚼(そしゃく)機能や口腔機能が低下すると、よく噛む必要のある野菜や大豆製品の摂取が減る一方で、あまり噛まなくても食べられるごはんやめん類などの摂取が増加しがちです。その結果、たんぱく質やビタミン、食物繊維などが不足し、脂質や糖質、エネルギー量は過剰になるため、生活習慣病のリスクや、十分な栄養がとれない低栄養のリスクが高まります。

噛めない一因「歯がない・義歯もない」と認知症や転倒のリスクが高まる

よく噛めないことによる影響は、食事の問題にとどまりません。神奈川歯科大学の研究によると、歯がほとんどないのに義歯も使っていない人は、自分の歯が20本以上ある人に比べて、認知症になるリスクが1.85倍も高くなります。*1 歯がないためによく噛むことができず、脳の認知領域への刺激が低下して認知機能が低下するのでは、とみられています。生野菜や豆類などよく噛まなければ食べられない食品の不足により、ビタミン類などが不足して認知症リスクが高まるのでは、との見方もあります。

また、同大学が、転倒したことがない65歳以上の人を対象に調べた結果、自分の歯が19本以下で義歯を使っていない人は、自分の歯が20本以上ある人に比べて、3年後に転倒するリスクが2.5倍も高いこともわかりました。*2 よく噛めないと転倒リスクも高まるわけです。これについて、自分の歯も義歯もない状態では、あごの位置が不安定になり、体のバランスをとりづらくなるのでは、という仮説があります。

佐瀬 聡良 先生

監修者 佐瀬 聡良 先生 (佐瀬歯科医院 院長) 1984年日本大学松戸歯学部卒業。89年千葉県千葉市に佐瀬歯科医院を開院し、現職。2004年より日本大学松戸歯学部歯周治療学講座非常勤医局員も兼務。「臨床家のための実践ペリオセミナー」「歯科衛生士のための実践ペリオセミナー」講師なども務める。日本歯周病学会専門医、日本臨床歯周病学会認定医・指導医、米国歯周病学会会員。