文字サイズ

健康経営を構成する3つの軸――コスト軸・マネジメント軸・投資軸

健康経営を構成する3つの軸――コスト軸・マネジメント軸・投資軸

「健康経営®」に取り組もうとするとき、まず意識すべきことは、その基本的考え方である「3つの軸」です。第1軸が心身の健康を確保(法令遵守)するための「コスト軸」、第2軸が職場対応と企業リスク回避の「マネジメント軸」、第3軸が環境改善とコミュニケーション向上のための「投資軸」です。ここでは、各軸の詳細を解説します。

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

健康経営の第1軸:心身の健康を守るための「コスト軸」

わが国では事業者に対し、健康づくりと疾病対策のため、労働安全衛生法によって従業員の健康診断を義務づけています。従業員の健康を守ることは経営の基盤であり、なおかつ法令遵守にもつながるため、健康診断の実施は必要不可欠なコストといえます。

近年は体の健康のみならず、メンタルヘルス対策も重要となっています。メンタルヘルス教育を行い、従業員本人のセルフケア、ラインによるケア(管理監督者による、職場環境等の把握・改善や労働者の相談への対応、職場復帰における支援など)の両面でメンタルの不調を未然に防ぐことが必要です。法令で定められた従業員数の事業場においては、産業医・保健師等専門スタッフの設置、事業所外の専門家等との連携なども検討しましょう。

健康経営の第2軸:リスクアセスメントのための「マネジメント軸」

従業員の高ストレス状態は、ストレス関連疾患等により業務が遂行できなくなるリスクだけでなく、労働災害や損害賠償、さらには業務停止といった企業リスクにもつながりかねません。安全配慮義務履行を怠らず、働き方改革などを積極的に行って、リスク回避することが大切です。

また、ストレスチェック制度の対象とならない事業所であっても、職場環境や職務適正、人間関係、プライベートなライフイベントなどさまざまな面でのストレスを各人が抱えていないか、把握して対処する仕組みづくりが欠かせません。

健康経営の第3軸:環境改善とコミュニケーション向上のための「投資軸」

労働生産性が向上する職場づくりには、「3S(整理・整頓・清掃)」をはじめとする環境改善への投資が必要になります。事務所衛生基準規則を守り、安全で快適な職場環境をめざしましょう。

経済産業省が公表した「健康経営オフィスレポート」(「平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業健康経営に貢献するオフィス環境の調査事業」による)の巻末に掲載されている「『健康を保持・増進する7つの行動』簡易チェックシート」では、快適性を感じる職場環境のチェック項目として次の5つが挙げられています。あなたの事業所の環境をチェックしてみましょう。

(1) 自分の体に合わせて椅子の機能を調節している
(2) 室温が快適である
(3) 作業面が十分に明るい
(4) たばこや強い香水など不快な臭いを感じない
(5) 自分の居場所が確保されていると感じる

上司と部下の職務遂行のための情報交換、職場で共通の職務を行う者同士、あるいは異なった価値観をもつ者同士のコミュニケーションへの時間投資も必要となります。

図 健康経営の3つの軸

(岡田邦夫・山田長伸『なぜ「健康経営」で会社は変わるのか』法研、2018年より一部改変)

健康経営においては、これらの3つの軸を安定させることを意識しつつ、そのために行った投資=健康投資に対するリターンを得るため、PDCAサイクルを回していきましょう。次回は、健康投資について解説します。

岡田浩一 先生

監修者 岡田邦夫 先生 (特定非営利活動法人 健康経営研究会 理事長)
1951年大阪市立大学医学部卒業、1982年大阪ガス株式会社産業医、2006年特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、2007年大阪経済大学人間科学部客員教授、2010年大阪市立大学医学部臨床教授、2014年プール学院大学教育学部教授、2018年大阪成蹊大学教育学部教授を歴任、2017年より女子栄養大学大学院客員教授。日本産業衛生学会指導医、労働衛生コンサルタント。著書に『安全配慮義務』(産業医学振興財団)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、共著に『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(法研)などがある。