健康経営の流れと「健康投資」
「健康経営®」は、いわば従業員の健康づくりという事業を黒字展開するための経営戦略です。まずは、職場内の健康課題についての綿密な調査と、講じる対策を検討し、それによるアウトカムを求めます。そして課題を解決するための戦略を立て、必要な投資についても考えることになります。
※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営には、企業が新規事業を開始する場合と同様に取り組む
健康経営の流れを考えるとき、企業が新規事業を開始する場合を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。新規事業を行うにあたっては、プロジェクトチームを立ち上げ、マーケティング調査や既存商品の調査などを行うでしょう。そして事業化して商品を開発したら、広報や営業活動を行って利益を出すことをめざすというのが一般的です。
健康経営でも、まず取りかかるのは健康づくり担当者の決定、そして調査――改善すべき問題点の洗い出しです。従業員の健診結果や従業員へのアンケートなどをもとに、健康課題を抽出します。
健康課題が明らかになったら、それらが改善し労働生産性が向上する(=利益を生む)ための対策を決定し、営業戦略を練ります。その対策を組織的、そして継続的に展開するための仕組みを構築するにあたっては、「時間投資」「空間投資」「利益投資」が必要となります。
時間投資で欠かせないのは、コミュニケーションのための時間
いきなり多額の投資をすることは考えられないことから、まず必要となるのは時間投資です。経営者が健康経営を考え情報収集する時間、健康経営を推進するための会議の時間、経営者自身の考えを全従業員に伝える時間、従業員に健康教育を行う時間などを費やすことになります。ここには、就業時間内に行う健康診断や保健指導も含まれます。
また、特に重要となるのが、上司と部下のコミュニケーションのために上司が費やす時間です。部下の仕事の進捗状況を把握できていなかったり、能力以上あるいは能力以下の業務を指示したりすれば、お互いのストレスが蓄積してしまいます。結果として、ハラスメントやプレゼンティーイズム(就業していてもなんらかの健康問題によって業務効率が落ちている状態)を招きかねません。従業員の業務遂行能力の向上を通して、健康度・職務満足度や労働生産性を高めることにつなげましょう。
職場の環境を快適化し、健康度を高めるための空間投資・利益投資
第2の投資は、空間投資です。これは、職場の環境を快適化することを指し、「3S(整理・整頓・清掃)」に加えて「清潔・感染症対策」が基本です。なお、経済産業省の「健康経営オフィスレポート」では、従業員が生き生きと働ける「健康経営オフィス」とは、次の7つの行動を可能とする職場であるとされています。
【健康を保持・維持するための7つの行動】
快適性を感じる/コミュニケーションする/休憩・気分転換する/体を動かす/適切な食行動をとる/清潔にする/健康意識を高める
これらの実現は第3の投資である利益投資にもつながります。利益投資とは、企業の利益を健康投資として活用することを指し、少額投資と多額投資があります。少額投資としては、例えばアルコール消毒液やうがい液の設置、職場で食事がとれるような電子レンジの設置、インフルエンザ予防接種料の補助、社内健康講演会の講師料などがあります。高額投資では、オフィスレイアウトの転換、気分転換やコミュニケーションができるリフレッシュルームの設置、立ったまま業務や会議が行える電動昇降机の導入などがあります。
このように、3つの投資をうまく組み合わせて従業員の健康観とインセンティブを高めることが、経営者・管理監督者と部下とのwin-winの関係の構築にもつながります。