働き方改革と健康経営
「健康経営®」を進めてきた企業では、それまでの健康経営の取り組みが、今回の新型コロナウイルス感染症対策に良い効果をもたらしたという調査結果があります。コロナ流行下の一時的措置や、単なる感染症対策としてではなく、働き方改革としてのテレワークやICT環境のさらなる推進が求められます。しかしその一方で、運動不足や体重増加、ストレス増などの新たな課題も見つかっていることも見過ごしてはなりません。
※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
長時間労働を是正しワークライフバランスを改善することで、生産性の向上に
健康経営の考え方は、従業員が健康で、かつ、やりがいをもって仕事に従事することで、生産性の向上をめざそうとするもので、その実現のためには働き方改革が必要不可欠です。
かつて、従業員が自分の健康を維持することは「自己責任」とされ、長時間労働に耐え業務の遂行を最優先することが“日本のビジネスマン”としてもてはやされてきました。その結果、さまざまな判例――過労死や長時間労働による事故、メンタルヘルスの問題による自殺、パワーハラスメントなどが後をたちませんでした。
2019年4月1日に「働き方改革関連法」が施行され、「時間外労働の上限規制」「有給休暇の取得促進」「同一労働同一賃金」など、さまざまな取り組みが実施されています。しかし、前述のような古い考え方の企業も未だ残っています。また、日本がOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、労働時間が長く睡眠時間が少ないにもかかわらず、労働生産性は低いという状況はあまり変わっていません。
“ウィズコロナ”時代には、従業員の今後の健康も見据えた働き方改革が必要
今年(2020年)は新型コロナウイルス感染症の流行により、「テレワーク」を導入する企業が急増するなど、働き方改革が一気に進みました。しかし、緊急事態宣言解除とともに通常勤務に戻ってしまった企業、休業した分を取り戻すために長時間労働に陥った企業、新しい生活様式への対応に追われている企業など、対応や状況の差が如実に現れています。
今年6月に健康長寿産業連合会 健康経営ワーキングが実施した、「新型コロナウイルス流行下における健康経営の取組状況に関する調査結果」では、新型コロナウイルス感染症対策(以下、新型コロナ対策)に関して、健康経営銘柄2020および健康経営優良法人2020の認定企業(以下、認定企業)とそれ以外の企業(以下、未認定企業)の対応を比較しています。
それによると、認定企業の75%が「これまでの健康経営の取り組みが良い効果をもたらした」と認識しているのに対し、未認定企業でそのように認識しているのは42%にとどまっていました。
なかでも、従業員の精神的・身体的不調や生活習慣状況の把握などは、従来から実施していたことの延長線上で行われていた企業もあり、健康経営に取り組んでいたことが早期対応につながったと考えられます。また、在宅勤務やWeb会議などへの切り替えにおいても、従来から働き方改革としてICT環境を充実させてきたことが、功を奏した企業もあるでしょう。働き方改革に適応できる企業は、健康経営にすでに取り組んできた企業といえそうです。
一方、テレワークが中心となった企業では、通勤時間が減るなど身体的負荷が軽減した反面、体重増加や運動不足といった新たな健康問題も出ており、生活習慣病が増えることが危惧されます。また、パフォーマンス低下やコミュニケーション不足によるストレス増、家族不和など、メンタル面への影響も懸念されます。経営者には、目の前の課題に適切に対処しつつ、5年後、10年後を想定した判断と実行力が求められています。