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健康経営における女性特有の健康問題へのケア

健康経営における女性特有の健康問題へのケア

健康経営を進めるうえで、妊娠中・出産後の従業員への対応や、月経トラブル、更年期障害等への支援も含めた女性の健康管理を整理し、取り組みを進めていく必要があります。管理職や男性従業員が正しく理解し、適切に対応できるような指導も必要です。

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

働く女性の増加に伴い、求められる健康問題への課題

女性の社会進出が進み、労働力人口に占める女性の割合は4割を超えています(厚生労働省「平成29年版働く女性の実情」より)。女性の勤続年数の伸長、初婚・初産年齢の上昇、生涯出生数の減少など、女性を取り巻く状況は大きく変化し、女性の働き方は多様になっています。

これまで企業の健康支援は、メタボリックシンドローム対策など、生活習慣病予防としての、どちらかというと男性基準の対策が中心でした。しかし、働く女性が増加している昨今、企業にとって女性従業員の活躍が期待されるとともに、女性特有の健康問題への支援が重要な課題となっています。

女性は、男性と比較すると生涯を通じてホルモンの影響を受けやすいとされ、月経や妊娠・出産、婦人科系のがんなど、比較的若い世代から性別特有のさまざまな健康問題があります。

特に男性の多い企業では、女性特有の症状について、「理解が難しい」、「どのようにサポートしたらよいのかわからない」といった声がよく聞かれます。しかし、重要な働き手となる女性の健康問題を企業側が正しく理解し、積極的なサポート体制を設けることは、健康経営の面においても喫緊の課題です。

妊娠・出産する女性労働者と企業・主治医を連携させる「母健連絡カード」

まず、妊娠・出産に関連するケアは、会社は法律に基づく措置など、さまざまな対応が求められます。定期的な健康診断受診や、通勤緩和、休憩、産後の症状への対応など、医師からこれらの指導内容を会社に伝えるための書類に「母性健康管理指導事項連絡カード(以下、母健連絡カード)」があります。会社としては、母健連絡カードが提出された際の手続きを決めておくことに加え、その内容に沿った対応ができるような準備が必要です。例えば、つわりの症状に対しては勤務時間の短縮や、時差通勤、休憩時間の確保等の対応があります。

妊娠中に就業が禁じられている危険有害業務もあります。女性の従業員から申し出があった際に、労働基準法、女性労働基準規則で規定されている業務を行っている場合には、速やかに担当業務を変更するなどの措置が必要です。

なお、新型コロナウイルス感染症の流行下で、業務における感染リスクの心理的ストレスが、妊娠に影響を与える可能性があると主治医から診断された際にも、会社は就業への配慮が求められます。

管理職や男性従業員の理解・対応も重要

妊娠、出産に関する母性健康管理以外にも、女性特有の健康問題への対応があります。月経に関連して、月経痛の際の生理休暇の取得や、PMS(月経前症候群)や更年期障害による体調不良への対応などです。また、母性健康管理上の措置を含めて、対象となる女性従業員やその上司が会社の取り組みを知っていればよいというものではなく、男性従業員を含めた従業員全体への周知と、特に管理職の理解と適切な対応が求められます。

一方で、女性従業員が男性の上司に妊娠の申し出をしたり、女性特有の健康問題について相談したりすることには大きな抵抗があるといわれます。厚生労働省では、性別にとらわれない人事管理を徹底させ、女性が能力を発揮しやすい職場環境をつくる役割を担う機会均等推進責任者を選任することを求めています。女性の健康管理に関する仕組みづくりやその周知等を推進する立場として、機会均等推進責任者を選任して活動してもらうというアイデアも取り入れてみると、対応が進みやすくなるかもしれません。

関谷 剛 先生

監修者 関谷 剛 先生 (医師/産業医/労働衛生コンサルタント/東京大学 未来ビジョン研究センター客員准教授)
信州大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科内科学卒業し医学博士を取得。東京大学医学部附属病院、国立国際医療研究センター等で診療。その後、東京大学アレルギーリウマチ内科や東京大学医学部分子予防医学講座(現、衛生学講座)で研究。専門は予防医学、免疫学、内科学。現在は東京大学未来ビジョン研究センターライフスタイルデザイン研究ユニットやひいらぎクリニックなどに勤務、予防医学や産業医活動に従事している。