受診してくれない有所見者に、響く伝え方とは?
「要精密検査」や「要治療」と言われても受診しない対象者には、忙しい、面倒、病気と診断されたら怖いなど、それぞれの理由や事情があるようです。なぜ再検査や治療が重要なのか、先延ばしにするとどうなるのか、わかりやすい表現と感情に訴えかける方法で伝えて、受診率アップにつなげましょう。
抽象的で、理性に訴えるだけのメッセージになっているかも?
当コーナーの第1回では、「やってはいけない9原則」をお伝えしました。今使っている受診勧奨ツールをその表でチェックしてみたとき、「ジ(字だけで伝えて、イメージしにくい専門用語や抽象的なメッセージ)」「リ(理性に訴え、興味をもったり考えたりしてもらうようなメッセージ)」に当てはまる伝え方をしていませんか?
健診案内では、「あなたの健康を守る」「明るい未来のために」といった、抽象的なメッセージが使われがちです。美しい言葉ですが、その反面、何を伝えたいのかが不明確で記憶に残りません。メッセージのパワーは「抽象<具体」です。抽象的な表現にとどまらず、具体的な表現を心がけましょう。
「視覚的・具体的」を意識して、興味をひくわかりやすいメッセージに!
例えば、「高血圧を放っておくと動脈硬化を促進します」といった表現は、漢字の羅列が抽象的で、血管で何が起こっているのかイメージできません。一般の人には、医療の専門用語はわかりにくいのです。下の図のように、道路にたとえるとイメージしやすくなります。ボロボロの道路のイラストや画像があると、なおよいでしょう。
このように、メッセージのパワーは「抽象<具体」であることを心得て、次のような方法で具体性を高めましょう。
・数字を入れる……○%、○人、○万円、○kgなど
・視覚的にする……イラストや写真を入れる、数字をグラフにするなど
・具体例を入れる……何をどれだけどうすると、どうなるかを語る
・比喩やたとえ話を入れる……イメージできるもので説明する、身近なものに当てはめるなど
・体験談を入れる……語り手の表情まで見えるようなリアルな体験談がベスト
なお、グラフが入っていても、棒や折れ線が何本もあると、グラフに慣れていない人には伝わりにくくなってしまいます。ひと目で直感的に理解できるよう、いちばん伝えたい2本に絞ったり、ピクトグラムでわかりやすくしたりしましょう。また、イラストや写真を入れて見やすくするときには、視線の流れに合わせて「横書き=左から右へ」「縦書き=上から下へ」流れるレイアウトにする工夫も大切です。
「メリット」「デメリット」で感情に訴える!
人は「頭ではわかっていても、できない」もの。「こうするべき」と理性に訴えるのではなく、感情を刺激することも重要です。保健医療のコミュニケーションにおいて特に感情に訴えやすい情報は、
・行動変容のメリット(効果がある、よいことがある、楽しい、気持ちがいい、など)
・行動変容をしないデメリット(健康を損なう、後悔する、不安になる、など)
です。このどちらか一方を伝えても、両方を対比させてもよいでしょう。
とはいえ、そのメリットやデメリットが受け手にとって遠い未来や現実味の薄い未来であったら、あまり意味がありません。例えば、のどがカラカラなときに、コンビニで飲み物を買おうとしたとします。「今我慢すれば、1週間後に同じ金額で3杯買えます」と店員に言われたとき、「じゃあ1週間後にまた来ます」と答える人はどのくらいいるでしょうか。人は、将来のことになるほど損得が割り引いて感じられるのです。
同様に、血糖値が高い人に受診を勧める際、「このまま放置すると、将来糖尿病になります」「糖尿病は合併症のリスクが高い、怖い病気です」と将来のリスクを伝えても、受け手を「今行動しなくては!」という気にさせるのは難しくなります。
下の図は、「1年後」という具体的な期限を設定し、目先のデメリットを強調した例です。写真もつけることで、視覚的にも感情に訴えかけています。
なお、「行動変容しないデメリット」は、不安や恐怖を煽りすぎるとリアリティが薄れ、倫理的にも問題となってしまいます。これまでの研究からは、以下の3つのポイントを揃えることが推奨されています。*
①行動しない場合のデメリットや危険を具体的に伝え、ある程度の強さの不安や恐怖を感じてもらう
②その危険を回避する方法を、必ずセットで伝える
③受け手が、その方法を自分でも実践できると感じるようにする
* Witte, K, and M Allen. “A meta-analysis of fear appeals: implications for effective public health campaigns.” Health education & behavior : the official publication of the Society for Public Health Education vol. 27,5 (2000): 591-615.