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運動を促すポスターに、興味をもってもらうには?

運動を促すポスターに、興味をもってもらうには?

体を動かすことが苦手な人に身体活動を増やしてもらう目的でポスターを作るとき、どんな内容がよいでしょうか。どれかひとつでも取り組んでもらえるように身体活動の種類をたくさん並べても、実は逆効果ということも……。受け手の目線に立って、ポイントを絞りましょう。また、専門的な内容に偏っていないかどうかも、注意が必要です。

専門家の発信は情報量が多くなりすぎてしまいがち

ネットショップで商品を選ぼうとして詳細ページを見たとき、おすすめポイントが10個も20個も書いてあったり、聞き慣れない機能の説明が長々と書いてあったりして、読む気をなくしてしまった経験はありませんか?

これについて、認知心理学では、人間が頭を使って考えるエネルギー(認知資源)は有限であり、普段はエネルギーを温存しようと“エコモード”になっているためと考えられています。エコモードの頭では、あれこれと伝えられて情報量が増えてくると、「なんかいろいろ聞いたけど、まぁいいか」と全部を聞き流してしまいます。

保健事業を行う専門家の皆さんも、伝えたい気持ちと知識があるがゆえに、伝える情報量が増えすぎてしまうことはないでしょうか。ぎっしりと文字の詰まったがん検診の案内、事細かな食事指導……。「やってはいけない9原則」の「ジ(情報量が多い)」を思い出してください。残念ながら、情報量が増えるほど、受け手の気持ちは離れていってしまいます。

情報提供では、「量」より「質」(中身)が大切です。伝えたいことがたくさんあっても、理解してもらい、記憶に残らなくては意味がありません。受け手の視点に立ち、伝えたいポイントを絞り込みましょう。

また、専門用語を多用したり詳細に語りすぎたりと、「やってはいけない9原則」の「チュー(中学生じゃわからない)」になっていないかどうかも、チェックが必要です。

伝えたいことは4つまでに絞る

ネットショップの例に戻ると、ほしい商品を検索したら同じ性能・価格帯の製品がたくさん出てきて、迷った挙げ句に結局その日は買わなかった、という経験をした人もいるでしょう。人は選択肢が増えると、選択を先延ばしにしてしまい、現状維持を選ぶ傾向にあるのです。

人が一度に記憶にできる項目の数は3~4個といわれています。優先順位をつけ、受け手に記憶してほしいことを3~4個以内に絞ったり、3~4個のカテゴリーにまとめたりするようにしましょう。

例えば、次のようなポスターがあります

(画像提供:奥原剛)

専門家や興味のある人は、「階段は消費エネルギー量が多いなぁ」と、一つひとつ見たり、「駅でも階段を使おうかな」と思ったりするでしょう。しかし、健康や身体活動に興味のない人(=このポスターの対象者)にとってはどうでしょう。情報量と選択肢の多さゆえに、結局何も読み取らず、スルーしてしまうかもしれません。

健康医療情報の広報をする際には、「受け手は興味を持ってくれないし、読んでもくれないもの」という前提で、情報量を減らして作りましょう。このときのポイントは、まず、「目的は何か?」ということです。

目的に合わせた情報に絞り込み、興味をもってもらう

このポスターの目的は、健康や身体活動に興味のない人に対して、興味をもって読んで理解してもらい、「これならできるかも」と行動につなげてもらうことです。そこで、どんな人でも特別な準備なしに、今日からでも始められる2つに絞り、次のようにしましょう。

(画像提供:奥原剛)

これなら直感的に理解でき、選択肢が多すぎて思考停止になることもありません。

優先順位をつけるうえで悩むときは、「もし30秒しかないとしたら、何を伝えるか」「もし200字しか書けないとしたら、何を伝えるか」と考えてみるとよいでしょう。また、作ったものを一度バッサリと削ぎ落とし、目的と照らし合わせて違和感があるかどうか確認するのも一つの手です。違和感があるときは、削除箇所を再検討することになるので、前のバージョンを残しておくこともお忘れなく。

奥原 剛 先生

監修者 奥原 剛 先生 (東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野 准教授)
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了(公衆衛生学修士、MPH)。東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻(博士課程)中途退学。博士(保健学、東京大学)。大学病院医療情報ネットワークセンター副センター長。帝京大学大学院公衆衛生学研究科非常勤講師。
専門はヘルスコミュニケーション学。自治体、健康保険組合、医療機関等に対し、わかりやすく効率的な保健医療情報を作成するための研修、コンサルティングを提供している。著書に『実践 行動変容のためのヘルスコミュニケーション-人を動かす10原則』(大修館書店)がある。