文字サイズ

スナック菓子の食べ過ぎや、甘い飲み物の飲み過ぎを減らしてもらうには?

スナック菓子の食べ過ぎや、甘い飲み物の飲み過ぎを減らしてもらうには?

スナック菓子やスイーツ、ジュース、甘い缶コーヒー……。脂質や糖質がたっぷりとわかっていても、つい手が伸び、食べ過ぎてしまう人が多いもの。行動変容を促すには、予想外の情報やクイズ、数字で驚きを与えて興味をひくことと、説得力のある情報を伝えるのがポイントです。

人は「予想外の驚き」に興味をひかれる

早速ですが、問題です。スナック菓子を食べ過ぎてしまう対象者や、ジュースや甘い缶コーヒーを毎日買っている対象者の行動変容を促したいとき、どんな伝え方がよいでしょうか?

A.「飽和脂肪酸や糖質のとりすぎは、動脈硬化につながり、脳血管疾患や虚血性心疾患のリスクを高めるので、できるだけ控えましょう」と医学的に説明する。

B. 「健康は大切! スナック菓子や甘い飲み物の食べ過ぎ・飲み過ぎは体によくありません」と端的に説明する。

C. 「スナック菓子1袋には約30gの油が含まれています」「この缶ジュース1本には角砂糖○個分の糖分が含まれています」「これを一気に飲めますか?」「一気に食べられますか?」と、実際に計量カップに入った油の量や角砂糖の量を見せながら説明する。

Aだけでは効果が薄い可能性は、当コーナー第2回第3回で詳しく解説しました。Bも、やってしまいがちですが、言うまでもないことを一方的に伝えているに過ぎません(「やってはいけない9原則」の「イ(言うまでもないことを言う)」、「イ(一方的に伝える)」です)。どちらも、興味のない人を振り向かせ、行動に移してもらうのは難しいでしょう。

Cは、「えーっ、こんなにたくさんの油や砂糖が入っているの?」という驚きで興味をひくことができます。ショッキングなので記憶に残りやすく、次に手に取ろうとしたときに油や角砂糖を思い出し、踏みとどまるかもしれません。

このように、人は「予想外の驚き」を感じたとき、興味をひかれます。心理学者のジョージ・ローウェンスタインは、「新しく得た情報が予想外で、自分の認識と調和しないときに、興味が喚起される」とまとめています。*1

自分の持っている知識やデータに、相手に驚きを与えるネタはないか、探してみるとよいでしょう。

人はわからないことを考えると記憶に残る

もうひとつ、興味をひいて記憶に残す秘策を先程実際に使ってみたのですが、お気づきでしょうか? ――そう、冒頭のクイズです。

人は「謎」が大好きで、わからないことがあると興味をひかれます。これは心理学ではインフォメーション・ギャップ理論と呼ばれます*1。また、クイズ形式で考えると記憶に定着しやすいこともわかっており、これは生成効果と呼ばれています*2

保健事業の実施時には、「相手に何を教えようか」「何を知ってもらうべきか」という発想をしがちですが、「相手にどんな疑問をもってもらおうか」と考え、問いかけやクイズ形式を取り入れるとよいでしょう。

人々の評価や行動を示す数字は説得力が強い

また、CMや広告などでは「購入者の9割が効果を実感!」「累計100万本突破!」といった謳い文句のものが多く見られます。これらには、「みんながそう言うのだから、そうなのだろう」「それだけ売れているなら、よいものなのだろう」と思わせる説得力があります。

このように、人は「多数の人たちの考えや行動は正しい」と考える傾向があり、社会心理学で社会的証明と呼ばれる効果です*3、4。また、人には集団の暗黙のルールに従う傾向もあり、社会的規範の効果と呼ばれます。保健事業でも、

・昨年度、10人のうち9人が○○検診を受診しています
・5人のうち4人の検査数値が改善

といった数字を使うと、「自分もやってみようかな」と行動変容につなげやすくなります。スナック菓子やジュースの例でいえば、「スナック菓子を控えた9割の人の腹囲が平均10cm減!」とか、「社内自販機の売上推移によると、8割の社員が無糖の飲料に変更しています」といったアピールができるでしょう。

自分の持っているデータのなかに、このように人々の行動や評価を示す数字はないか、探す習慣をつけましょう。

参考文献

  • *1 Loewenstein, G. (1994). The psychology of curiosity: A review and reinterpretation. Psychological bulletin, 116(1), 75.
  • *2 Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of experimental Psychology: Human learning and Memory, 4(6), 592.
  • *3 McFerran, B. (2015). Social norms, beliefs, and health. Behavioral economics and public health, 133-160.
  • *4 ロバート・B・チャルディーニ.社会行動研究会(訳). (2014). 影響力の武器―なぜ, 人は動かされるのか.第3版.東京:誠心書房;1991; 185–266.

奥原 剛 先生

監修者 奥原 剛 先生 (東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野 准教授)
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了(公衆衛生学修士、MPH)。東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻(博士課程)中途退学。博士(保健学、東京大学)。大学病院医療情報ネットワークセンター副センター長。帝京大学大学院公衆衛生学研究科非常勤講師。
専門はヘルスコミュニケーション学。自治体、健康保険組合、医療機関等に対し、わかりやすく効率的な保健医療情報を作成するための研修、コンサルティングを提供している。著書に『実践 行動変容のためのヘルスコミュニケーション-人を動かす10原則』(大修館書店)がある。