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なかなか進まない職場の喫煙対策

なかなか進まない職場の喫煙対策

当コーナーでは、従業員40人程度の架空の会社「きょうかい株式会社」が健康企業宣言に取り組むという設定で、具体的な方策について解説しています。

第3回目の今回は、喫煙対策について取り上げます。喫煙は、たばこを吸っている本人への害はもちろんのこと、一緒に働く従業員にも受動喫煙の影響があるため、事業所全体で考えるべき問題です。

※「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

長年吸っている人に、たばこの害を理解してもらうには

「きょうかい株式会社」には、以前から喫煙専用室がありますが、「出てきた人とすれ違うとにおいが気になる」「吸いに行ってなかなか戻ってこない人がいる」といった苦情がたびたび上がっていました。撤去するかどうか、これまで何度か議論されたものの、「ないと困る」「来客者も使う」「改正健康増進法の要件は満たしているのだから」といった意見により、そのままになっていました。

健康経営担当者のケンポウさんは、事業所全体で健康経営に取り組んでいるという意識を醸成するためにも、喫煙専用室の撤去と、「就業時間内禁煙」のルール化を計画しました。全員に配布した、生活習慣と健康状態に関するアンケートでは、事業所内の喫煙率は20%(10名弱)と、日本全体の喫煙率から考えるとやや高い割合にありました。喫煙者は20代や30代といった若い世代には少なく、40代以上で長年吸い続けている人がほとんどのようです。いきなりルール化しても、反発が起きるおそれがありました。

「数名だけど、女性もいるのか……。吸い続けている人は、たばこの害の理解が足りていないのかもしれない」

なかには、加熱式たばこに切り替えたので問題ないと思っている人もいるようですが、加熱式たばこであっても健康影響はゼロではなく、正しい知識の啓発が大切です。そこで、ケンポウさんは次のような対策を考えました。

①経営陣に喫煙の健康に及ぼす影響を理解してもらい、メッセージを配信してもらう

まず、経営陣に喫煙の健康に及ぼす影響について理解してもらうことからはじめ、社長自ら旗振り役として会社全体で喫煙対策に取り組むために、メッセージを配信してもらいました。

②従業員全員に受動喫煙について楽しみながら理解してもらう

社員全員に、厚生労働省の「全国統一けむい問模試」に取り組んでもらいました。クイズ形式で、最後には点数だけでなく、これまでの参加者全体の順位も出るものです。社員みんなが積極的に参加してくれて、「〇位だった、悔しい~」「たばこにこんなにたくさんの有害物質が含まれてるなんて、知らなかった」と盛り上がっていました。

③喫煙者のみならず、すべての従業員に喫煙による健康影響についての講座を受けてもらう

協会けんぽ東京支部の、COPD(慢性閉塞性肺疾患)のリスクや禁煙について学ぶ「健康づくりオンライン講座」に申し込みました。家族に禁煙してほしいという人にも盛況でした。

※申し込みが終了している場合があります。ご了承ください。

いよいよ「就業時間内禁煙」へ

この2つの取り組みで「たばこって、やっぱりよくないね」という共通認識ができました。ケンポウさんは該当者に禁煙外来の通知を行いました。そして1カ月後、経営陣の後押しを受けて、喫煙専用室の撤去と「就業時間内禁煙」のルール化の周知、ポスターの掲示を行いました。

禁煙にチャレンジする人が増えだすと、部署全体で禁煙を応援する雰囲気に。「空気やごはんがおいしい気がする」「家族に嫌な顔されなくなった」という報告も受け、うれしいケンポウさんです。

岡田浩一 先生

監修者 岡田邦夫 先生 (特定非営利活動法人 健康経営研究会 理事長)
1951年大阪市立大学医学部卒業、1982年大阪ガス株式会社産業医、2006年特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、2007年大阪経済大学人間科学部客員教授、2010年大阪市立大学医学部臨床教授、2014年プール学院大学教育学部教授、2018年大阪成蹊大学教育学部教授を歴任、2017年より女子栄養大学大学院客員教授。日本産業衛生学会指導医、労働衛生コンサルタント。著書に『安全配慮義務』(産業医学振興財団)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、共著に『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(法研)などがある。