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病気になっても働ける会社へ―治療と仕事の両立フォロー

病気になっても働ける会社へ―治療と仕事の両立フォロー

当コーナーでは、従業員40人程度の架空の会社「きょうかい株式会社」が健康企業宣言に取り組むという設定で、具体的な方策について解説しています。

この特集の最終回である今回は、治療と仕事の両立支援について取り上げます。治療と仕事の両立支援は、「働き方改革実行計画」の大項目にあげられるなど、国が積極的に取り組んでいる施策の1つです。

※「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

治療と仕事の両立には、会社としてのルールづくりや制度の整備が必要

厚生労働省の「働き方改革実行計画」によると、労働人口の約3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いています。治療と仕事の両立を支援し、病気の人でも安心して仕事を継続できる環境づくりが求められています。しかし、職場の理解が得られなかったり、支援体制が不足により、離職するケースも少なくありません。国はガイドラインを示し、情報提供のためのポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」の開設等の施策を行っていますが、まだ十分に実践されているとはいえない状況です。

さて、「きょうかい株式会社」でも、営業マンの鈴木さんにがんが見つかり、入院した後も数カ月にわたって通院治療を継続することになりました。健康経営担当者のケンポウさんは、がん治療をしながら働くためのサポート体制を整えることを考えました。

「治療が最優先だけど、会社もできることは全面的にバックアップしたいなぁ」

ケンポウさんは各都道府県に設置されている産業保健総合支援センターを訪れ、両立支援について相談をしました。そこで、支援するうえでは主治医と企業の連携が不可欠であること、一人ひとりにあった支援と配慮が必要なことを学びました。鈴木さん本人と主治医の意見を勘案し、十分に話し合いながら、会社としてのルールづくりや制度の整備を行いました。

「治療と仕事の両立支援」をスムーズに進めるための具体策

①基本方針とルールの作成

「治療と仕事の両立支援」の基本方針や具体的な対応方法などのルールを作成。すべての労働者に周知し、治療と仕事を両立しやすい職場の空気をつくりました。

②同僚の理解と協力のために

一緒に働く人の理解と協力が不可欠です。労働者、管理職に対して研修などを行い意識啓発を図りました。

③相談窓口の明確化

「治療と仕事の両立支援」は、職場に復帰したい人の申し出から始まります。安心して相談・申し出が行えるよう相談窓口を明確にしました。

④制度の検討・整備

治療に配慮するため、休暇制度や勤務制度などを実情に応じて検討・整備し、下記の制度を新たに設けました。
●時間単位の有給休暇 ●傷病休暇制度 ●フレックス制度 ●短時間勤務 ●在宅勤務

両立支援は本人だけでなく、周りの社員にも大きな意味が

その後、鈴木さんは通院しながら短時間勤務制度を利用して働いています。仕事内容も、営業から身体的な負荷が大きくないデスクワークにシフトチェンジし、後輩の指導などにあたっています。新しい仕事にもやりがいを感じているようです。

両立支援の導入をきっかけに、人材の流出を防止でき、社員に“お互い様”の精神が芽生えて職場にやわらかな空気感も生まれました。鈴木さん本人だけでなく、がんになった場合でも安心して治療を受けられることが周知され、周りの社員にとっても大きな意味があったと感じたケンポウさんです。

当コーナーでは、全5回にわたって、健康企業宣言に取り組む「きょうかい株式会社」の具体的な方策を紹介してきました。ぜひ、皆さんの会社でも積極的に取り入れて、実際の健康経営にお役立てください。

岡田浩一 先生

監修者 岡田邦夫 先生 (特定非営利活動法人 健康経営研究会 理事長)
1951年大阪市立大学医学部卒業、1982年大阪ガス株式会社産業医、2006年特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、2007年大阪経済大学人間科学部客員教授、2010年大阪市立大学医学部臨床教授、2014年プール学院大学教育学部教授、2018年大阪成蹊大学教育学部教授を歴任、2017年より女子栄養大学大学院客員教授。日本産業衛生学会指導医、労働衛生コンサルタント。著書に『安全配慮義務』(産業医学振興財団)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、共著に『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(法研)などがある。