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突然の休職。そうならないように早めのメンタルヘルス対策を!

突然の休職。そうならないように早めのメンタルヘルス対策を!

当コーナーでは、従業員40人程度の架空の会社「きょうかい株式会社」が健康企業宣言に取り組むという設定で、具体的な方策について解説しています。

今回は、「メンタルヘルス対策」について取り上げます。中小規模の事業所では、従業員のメンタルヘルスケアに対応するためのスタッフやコストの確保が難しい側面もあるでしょう。しかし、従業員の心の健康づくりはとても重要な取組みです。

※「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

メンタルヘルス対策で重要な「4つのケア」

厚生労働省の「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は10.1%となっています。また、仕事や職業生活に関することでストレスを感じている労働者の割合は53.3%にも及んでいます。

メンタルヘルス不調による休職や退職、プレゼンティーズム(心身の不調を抱えながら仕事をしているため、生産性が低下している状態)は、経営面においても大きなリスクです。中小規模の事業所では、従業員が休職・退職しても人材の確保に時間がかかり、人員不足による周囲の負担も大きくなります。「きょうかい株式会社」で健康経営を担当しているケンポウさんは、厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に従って、メンタルヘルス対策を進めようと考えています。

「今のうちに社内全体のメンタルヘルス対策に対する意識を高めて、より長く健康的に働ける環境を整えなくては…」

メンタルヘルス対策には「4つのケアが継続的かつ計画的に行われることが重要」とされています。

①セルフケア
働く人自身が自分で行うことのできるケア。自らのストレスに気づき、予防対処できるよう、事業者は教育研修や情報提供を行います。

②ラインによるケア
管理監督者が行うケア。職場環境の把握・改善や、部下の相談対応、休職した従業員の職場復帰に向けた支援などを行います。

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や保健師、人事労務管理スタッフなどが行うケア。労働者や管理監督者に対する支援や、メンタルヘルスケアの実施に関する企画立案などを行います。

④事業場外資源によるケア
会社以外の専門的な機関や専門家によるサービスを活用し、情報提供や助言などの支援を受けるケア。

ケンポウさんは、4つのケアのうち①と②を中心に、できることから着手しました。

『こころの耳』サイトを活用してストレスチェックを開始

ケンポウさんは、まず「セルフケア」の一環として、厚生労働省が提供する『こころの耳』サイトの「5分でできる職場のストレスセルフチェック」を活用しました。

大企業では法的義務となっている「ストレスチェック(※)」の導入は、小規模の会社にとっては法令の遵守や費用の高さがハードルとなり、難しいと判断しました。個々の従業員にストレス状況をセルフチェックしてもらい、その結果や要望に応じて、産業医の面談が受けられるという体制にしました。とはいえ事業所内に産業医はいないため、地域産業保健センターに依頼して支援を受けられるようにしました。

「ラインによるケア」でも、『こころの耳』サイトを通じた管理監督者の研修を行いました。また、従業員が気軽に管理監督者に相談できるような円滑なコミュニケーションと、休職しても安心して療養できる体制づくりを目指し、定期的に社内で意見交換をしています。

社内でのメンタルヘルスに対する意識が徐々に高まりをみせており、ケンポウさんは改めて健康経営を取り組むことの大切さを学びました。

※ストレスチェック:労働安全衛生法第66条の10に基づき、2015年12月から特定の事業場で実施を義務付けられているストレスに関する検査のこと。

岡田浩一 先生

監修者 岡田邦夫 先生 (特定非営利活動法人 健康経営研究会 理事長)
1951年大阪市立大学医学部卒業、1982年大阪ガス株式会社産業医、2006年特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、2007年大阪経済大学人間科学部客員教授、2010年大阪市立大学医学部臨床教授、2014年プール学院大学教育学部教授、2018年大阪成蹊大学教育学部教授を歴任、2017年より女子栄養大学大学院客員教授。日本産業衛生学会指導医、労働衛生コンサルタント。著書に『安全配慮義務』(産業医学振興財団)、『健康経営推進ガイドブック』(経団連出版)、共著に『なぜ「健康経営」で会社が変わるのか』(法研)などがある。