第8回 斎藤博さん
- 住 吉
- 検診によって、健康な人の一次予防に役立つ、という可能性もあるんですか? 「がんになる可能性があるから、ここに気をつけてね」というような…。
- 斎 藤
- それは鋭いご指摘なんですが、二次予防というのは死亡を回避する予防、と先ほど申し上げましたが、中には、結果的に一次予防にも役立つものもあるんです。具体的に言うと、「子宮がん検診」と「大腸がん検診」でそういうことが科学的に証明されているんですが、これらの検診では「前癌病変」が見つかるんです。
- 住 吉
- がんになる前のポリープなど、変わった部分ですね?
- 斎 藤
- そうです。がんがどう進行していくかは、がんの種類によって違いますが、これらのがんは、例えば大腸だとポリープのごく一部ががんに進展していくんです。ですから、そういうものを取ってしまうことによって、その後がんにかかるリスクが減る、ということが科学的に証明されているんです。そういう意味でこの2つの検診は、亡くなる危険だけでなく、がんにかかる危険も減らすということに繋がります。
- 住 吉
- 現在勧められている検査法というのはあるんでしょうか?
- 斎 藤
- 新しい検診法、よりよい検診法を作っていくということは、非常に大事なことですが、容易なことではないんです。どうしてかというと、1000人の中に3、4人しかないがんを、残りの996、7人に迷惑をかけないで、かつ、早い状態でなるべく多く見つける、という検査法を作るのは非常に難しいんです。
- 住 吉
- 番組スタッフで「乳がん検診を受けたら、再検査になり、再度検査を受けたらがんではないとわかった」というケースがあったんです。最終的にその結果が出るまでかなり不安な日々が続いたそうなんですが、この場合、「検診を受けなかったら不安な期間がなかったのに…」と考える方もいるかもしれません。こういった場合は、どう考えたらいいのでしょうか?
- 斎 藤
- これは非常に重要なポイントで、言葉は悪いですが、検診にはデメリットも必ずあります。というのは、検診では「異常なし」と「精密検査が必要です」という2つに分かれます。後者の「精密検査が必要」という場合で、実際にがんがあった人というのは、10分の1、あるいは20分の1、それ以下だったりするわけです。検診でがんの疑いのあった人が全員がんである、という検診法は、残念ながら可能ではないんです。ですから、何もない人に精密検査をしたり、検査結果が出るまで不安にさいなまれる人も実際に出てくるわけです。これが、実は世界的に一番大きな検診のデメリットと位置づけられています。
- 住 吉
- そのがん検診も、五大がんの「大腸がん」「胃がん」「肺がん」「乳がん」「子宮頸がん」とあって、どれを受けたらいいのか?と迷う方もいると思います。
- 斎 藤
- はい。これは結論から言うと、厚生労働省が推奨している方法、日本では5つのがんに対する5~6つの検査を受けるということです。この推奨されている検診がどうやって決められているかというと、例えば「便潜血検査を受けると、大腸がんで亡くなる危険が減る」など、こういうことが証明されているかが、まず1つ目の条件になります。さらに、そういった「がんで亡くなるリスクを減らせる」という大きなメリットから、先ほどの不安も含めたデメリットを引き算して、明らかにメリットの方が大きいということが確認されたもの。この2つの条件で、検診を推奨するわけです。ですから、科学的根拠がないものは原則推奨しませんし、してはいけないんです。そして、もし科学的根拠があって、効き目があるとしても、デメリットが大きい場合は推奨しない。これが国際基準の考え方です。
- 住 吉
- 「何歳から何年間隔で受ける」というのも、もちろん検診によって違いますよね?
- 斎 藤
- そうですね。この年齢の人はこの間隔で受けると、リスクが下がって、しかもデメリットも少なくできる、と。これを守るのは非常に重要ですよ。
- 住 吉
- その情報というのは、どこを見ればわかりますか?
- 斎 藤
- 所属先で恐縮ですが…「国立がん研究センター がん対策情報センター」のホームページを見ますと、一般の方にもわかるような情報があります。
- 住 吉
- 斎藤先生ご自身ももちろん、がん検診を含む健診でしっかり健康のチェックをされていらっしゃる?
- 斎 藤
- もちろんです。
- 住 吉
- ちなみに、TOKYO FMではCSR活動として、「子宮頸がん予防啓発プロジェクト Hellosmile」を展開しています。詳しくは、「Hellosmile」のホームページをご覧ください。 それでは最後に、斎藤先生の「健康の秘密」を教えてください。
- 斎 藤
- 健康の秘密は…“美味しいものを食べること”と“運動”ですね。
- 住 吉
- 今日のお話は、斎藤先生の著書『がん検診は誤解だらけ 何を選んでどう受ける』でも詳しく読むことができます。興味のある方はぜひ手に取ってみてください。斎藤博さん、ありがとうございました!
ここで、あなたの健康をサポートする協会けんぽ東京支部からのお知らせです。毎年5月31日は、世界保健機関が定める「世界禁煙デー」です。喫煙は、がん以外にも心筋梗塞、狭心症、呼吸器疾患など、様々な病気のリスクになります。例えば、日本の研究ではがんの死亡のうち、男性で40%、女性で5%は、喫煙が原因と考えられています。ですが、今タバコを吸っている人も、禁煙することによって様々な病気のリスクを下げることができるんです。この機会に皆さんも、喫煙と健康の関係を見直してみてはいかがでしょうか。
6月1日(木)のゲストは、バレリーナの上野水香さんです。次回もどうぞお楽しみに!