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第61回 中川恵一さん

第61回 中川恵一さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授の中川恵一さんです。
中  川
よろしくお願いします。
住  吉
中川先生は、がんの検診や治療、そして予防のスぺシャリストでいらっしゃいます。そこで今日は、がんについて教えていただくのですが、キーワードは「がんは働きながら治す」です。まず、日本はがん患者の方が増えているという話はよく聞くのですが…。
中  川
日本は世界一のがん大国と言えると思います。年間101万人が毎年新たにがんと診断されていて、その3分の1、33万人以上が働く世代なんです。そもそも日本人の男性の3人に2人、女性でも2人に1人ががんになっているんです。
住  吉
なぜ世界一なんですか?
中  川
がんは、細胞の老化のような病気なんです。特に遺伝子の老化と言える病気なので、長く生きるとその分だけ遺伝子が痛むんです。
住  吉
長寿の国だから多いんですね。
中  川
そうなんです。
住  吉
とは言いながらも、働く世代、若いと言える世代にも3分の1もいるというのは、これは原因が違いそうですよね。
中  川
女性は、若い頃にもがんになりやすいんです。男性にがんが多いんですが、54歳までは女性が多いんですよ。それはなぜかというと、乳がんが一番多いのは40代後半で、子宮頸がんなどは30代ですから、女性は老化以外の要素があるんですね。例えば、乳がんは日本女性の11人に1人がなっているんですが、女性のがんで一番多いんです。しかも急激に増えている。その理由は何だと思いますか?
住  吉
食事の変化とか?
中  川
一番多いのは、少子化なんですよ。子供を産まないということは、実は乳がんが増えるんです。例えば、1人を妊娠、出産、授乳まで考えると、2年以上生理が止まりますよね。そうすると、女性ホルモンによる乳がん細胞への刺激がなくなるんです。逆に、子供を産まないということは、非常に乳がんのリスクが増える。
住  吉
その刺激がずっとあり続けるから、ということなんですね。
中  川
そうなんです。ですから、社会と共にがんは変わっていく。そしてもう1つは、定年が延びている。例えば、昔は55歳で定年だった。そうすると、55歳までにがんになる確率は5%ぐらいなんです。ところが、65歳までだと15%。75歳まで働くと、男性の場合は3割以上ががんになる。ということは、結局働く人にがんが増えていく。
住  吉
働く世代にがんが増えるというのには、社会的な要因もたくさん関わっているんですね。そこで、今日のテーマ「がんは働きながら治す」ですが、今実際に、がんを治療しながら働く人が増えているのでしょうか?
中  川
そうですね。治療法も進んできて、働きながら治療することが十分可能になってきています。例えば、私はがんの放射線治療が専門なんですが、放射線治療は95%以上が通院でできます。そして、1回の治療時間は1~2分、ただ寝ているだけなんです。東大病院の場合はですけれども、例えば、肺がんは4回、前立腺がんは5回通院していただくだけ。しかも、夜10時まで放射線治療をやっている病院もあります。
住  吉
それは、働く世代を意識して、ということですね。
中  川
そうですね。実は今、抗がん剤なども外来で行うのが当たり前になってきていて、胃がんなども早期がんであれば、場合によっては外来で、内視鏡で治療が終わってしまう。
住  吉
入院しないんですか?
中  川
しないです。そのポイントは、やはり「早期に見つける」ということなんです。進行がん、末期がんとして見つかると、どうしても入院という話になってしまいますけれども、がんという病気は早期がんか進行がんかで全然違った病気と考えていただいて良いです。ですから、仕事をしながらがん治療をするためには、早期に見つけることが必要で、そのポイントは「がん検診」ということになります。
住  吉
早期に発見すると、がんは治る病気と考えて良いんですか?
中  川
95%は治ります。がん全体で6割以上は治るんです。早期がんから進行がん、末期がんまで含めて6割以上は治る。早期がんに限ると95%が完治します。
住  吉
完治ですか。ではその後も、がんになったことがあるということをほぼ意識しないで暮らすことができる?
中  川
そうですね。例えば、進行した乳がんは、10年あるいは15年以降にも再発するリスクがないとは言えません。歌手のオリビア・ニュートン・ジョンという方が、25年前に乳がん治療なさったんだけれども、25年後に再発されたりしています。ただそれは、早期がんでは起こらないことですね。ですから、早期に治療ができれば、ほとんどが完治する。その後の人生にほとんど影響を与えないですね。
住  吉
以前は、がんになると生活をガラッと変えて、普段の生活を全部ストップさせる、というイメージだった時代もあると思うのですが、今は働きながらがんを治していく時代になったということですよね。そのためには、患者側、働く側の意識や、そうなった場合にどうするかということも大事ですが、受け止める社会の側、特に働く場合は企業の側の意識改革や仕組み、システムを変えていくということがすごく大事になりますよね。
中  川
がんが死の病である、と心の底から信じている経営者の下では、おそらく仕事と治療の両立はできないですよね。例えば、サラリーマンががんになると、3人に1人が離職しています。働きながら治療はできるんですが、それは経営者側の理解も非常に重要。さらに、早期発見のカギというのは、全く症状がなくても検査をすること。というのは、早期がんって症状を出さないんです。ですから、「俺は絶好調!」「私は本当に元気!」と思っている時にもがん検診をしなければいけないんですが、胃がんや大腸がん、肺がんなどは、7割近くが会社で受けておられるんですね。ですから、会社の中できちんとがん検診をしていただかなければいけない。厚生労働省の国家プロジェクト、がん対策推進企業アクションの議長を、私が10年近くやっておりまして、国も会社の中でのがん対策に非常に熱心に取り組んでいます。
住  吉
これは、具体的にはどんな取り組みなんですか?