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第82回 溝田友里さん

第82回 溝田友里さん

住  吉
溝田さんのチームで取り組んでいらっしゃるのが「はがきプロジェクト」。こちらはどういうものなのでしょうか?
溝  田
今、心理学や社会学で「ナッジ」という言葉が注目されています。これは「ひじでつつく」という意味なんですが、人は「大切だ」という認識を持っていても、そこにきっかけが加わらないと行動に繋がらない、ということがわかっています。例えば、ピンクリボンキャンペーンで乳がん検診に対する知識や認識はすごく上がったんですが、その間の受診率は全く変わらなかった、ということがありました。知識だけではなく、そこに何か1歩踏み出すきっかけが必要で、それが「ナッジ」というものです。「受けなさい」と伝えるということではなく、人が自然に行動しやすいように環境を変えたり、伝え方を工夫したり、その人が動きやすいように自然な流れを作ってあげる、という支援の仕方が今注目されています。そういう考え方から、私たちも「はがきプロジェクト」を始めました。
住  吉
はがきがナッジになるということですね。
溝  田
そうですね。自分は大丈夫だという人、不安だという人、何となく受けていないという人へのメッセージを全て伝えられるようにしています。さらに、通販番組の手法も参考にしてあります。
住  吉
今、そのはがきのサンプルをスタジオにお持ちいただいています。三つ折りのはがきにたくさん情報が書かれていますが、イラストが女性好みで、堅いお知らせが来たという雰囲気はないですね。
溝  田
そうなんです。それもこちらの狙いで、不安な人に対して堅い文字だけのお知らせではなく、柔らかい感じでお伝えする、ということがまずポイントの1つです。
住  吉
あと、今おっしゃった通販の手法というのは…。
溝  田
はがきのどこかにあります。
住  吉
「検査費用○○円-助成金○○円=自己負担金0円」と書いてありますね。
溝  田
そこです。実はよく見ると、普通の自治体のお知らせと違っているんです。普通の自治体は、「無料で受けられます」「今年は500円です」などとお伝えしていたんですが、そうすると「自治体で提供する検診は安いので、レベルがあまり高くないのではないか?」と思われてしまいます。そこで、「元値はこんなに高いんですよ」ということを伝える。だから、はがきの中で一番大きく書いてあるのは「今年は○○市より○○円の助成があります」で、「0円で受けられます」を伝えているのではないんです。「本当は高価な検診が、このはがきが届いたあなたは今このタイミングならこの値段で受けられるんですよ」と。
住  吉
なるほど。これもまさに行動科学で、「じゃあ今受けておこうかな」というナッジになるわけですね。実際にこのはがきを送り始めてからしばらく経つんですか?
溝  田
7年ぐらい前からこのはがきを使い始めているんですが、普通のよくある自治体のお便りに比べて、3~5倍受診者が増えるという成果があります。
住  吉
乳がん検診の受診率を上げるために、他にも考えていることがあると伺っているのですが…。
溝  田
今回、テレビ番組で乳がん検診が大切だということを放送したタイミングで、このはがきをお送りしてみたんです。今まで、テレビやラジオを聴いている人は、大事だなと思ってもなかなか行動に移せない、ということがここでもありました。例えば、テレビで「トマトはすごく栄養がある」と知って、「じゃあトマトを食べなきゃ」ということでトマトがたくさん売れる、ということがあります。それは、トマトを買いに行く場所がわかっているから行動に移せるんですが、「乳がん検診は大事だな」と思っても、「どうやって受けたら良いんだろう。自分が助成金の対象なのかもわからない」ということがあるんです。そこで今回は、テレビで観て「大事だな」と思った時には手元に届いている、というようにタイミングを合わせました。これも通販番組を少しマネしたところです。「大事だな」と思ったタイミングで「このはがきが来ているということは、自分は対象なんだな。ここに申し込めば良いんだな」ということがすぐにわかって、そのまま行動に移せる、という意味で、このはがきを使ってみました。
住  吉
効果はありましたか?
溝  田
年間を通しての受診率はこれから調べていくことになるんですが、いくつかの自治体で放送後の様子を見てみたら、申し込みが殺到していたので、大きな成果がありました。
住  吉
今日は検診のスペシャリスト、溝田さんをお迎えしていますが、溝田さんも健康診断は欠かさず受けていますか?
溝  田
実は、国立がん研究センターに来てこういうことをするまでは受けたことがなくて、知識があっても行動しないという人の代表例だったんです…。その時に一つ感じたことがあって。(がん検診を)受ける前に「自分ががんだったらどうしよう」とすごく考えてしまったんですが、もし自分ががんだった時に、「すぐ入院することになったら、その時は何を持っていったら良いんだろう」「取り急ぎの必要なお金はどうしたら良いんだろう」「家のローンやペットの世話は…」などとすごく色んなことを考えて、準備が間に合わないと思ったんです。2人に1人は何らかのがんになる時代なので、自分がそうなった時にどういう準備が必要かということを、防災訓練のように1年に1回考えて準備をする良い機会になるのではないかなと思います。
住  吉
では最後に、溝田さんの「健康の秘密」を教えてください。
溝  田
健康の秘密は、“がん検診を受けること”です。大腸がんと肺がんは毎年、乳がん、子宮頸がん、胃がんは2年に1度の検診を定期的に受ける、その時に自分の健康だったり、がんになった時の備えについて考える、ということです。
住  吉
溝田友里さん、ありがとうございました!
ここで、あなたの健康をサポートする協会けんぽ東京支部からのお知らせです。皆さんは、乳がん検診を受けていますか? 生涯のうちに乳がんになる日本人女性の割合は年々増加し、現在では11人に1人と言われています。協会けんぽでは加入者ご本人様向けに、乳がんなどの様々ながんに対応した生活習慣病予防健診をご用意しています。早期発見、早期治療のためにも是非ご利用ください。詳しくは、協会けんぽ東京支部のホームページをご覧ください。
11月1日(木)のゲストは、シンガーソングライターのJUONさんです。次回もどうぞお楽しみに!