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第117回 田中滋さん

第117回 田中滋さん

住  吉
住吉美紀がお届けしています、TOKYO FM「Blue Ocean」。今日の「Blue Ocean Professional supported by 協会けんぽ 健康サポート」のゲストは、埼玉県立大学理事長で全国健康保険協会運営委員会・委員長の、田中滋先生です。
田  中
よろしくお願いいたします。
住  吉
田中先生は、社会保障や医療・介護政策のスペシャリストでいらして、高齢化に備えた地域社会を支える仕組みについて、長年研究と実践を重ねていらした方です。
今日のテーマは「地域包括ケアシステム」。「地域包括ケアシステム」とは、どのようなものでしょうか?
田  中
お年寄りや障害者などが住み慣れた地域で本人が望むならば人生を全うできるための仕組みです。具体的な要素としては、「医療」「介護」「予防」「住まい」「生活支援」、この5つによって成り立っています。
住  吉
この地域包括ケアシステムが今どんどん必要になってきているということなんですね。
松  室
全国各地に作られています。
住  吉
なぜこんなにも必要となってきているのでしょうか?
田  中
それは高齢者が増えたからです。前回、日本でオリンピックがあったのは、1964年です。この時日本には、65歳以上が600万人しかいませんでした。今は3000万人です。75歳以上は300万人しかいませんでした。今はまもなく2000万人になります。85歳以上に至っては数十万人だったのが、今は600万人になりました。理由は、医療の発達や日本の栄養水準、公衆衛生が良くなったことによって、人々が長生きできるようになったからです。高齢者が3000万人になれば、元気高齢者もいるし、弱った方もおられる。従って、介護ニーズが発生しました。これに気がついたのが1990年代です。病気でもない、しかし看取りでもない、弱った状態で人が長生きしている、と。そこで、介護保険制度を2000年に作りました。食べにくい、排泄のお世話がしにくい、自分で体を洗えないなどの介護問題については、介護保険で的確なサービスができるようになりました。でも、介護保険だけでは人を幸せにできないということに後から気がついたんです。親族や友人と語り合ったり、笑ったり、一緒にご飯を食べたりすることも生活だし、住まいの中でちょっと苦しくなったから直ちに病院…ではなくて、自分の住み慣れたところで済んだり、そういうことのためには、先ほど言った5つの要素が連携を取らなければならない。ということで、2008年から本格的に地域包括ケアの研究が始まりました。2014年に国会を通った医療介護総合確保推進法という法律がありますが、この法律の第1条に、地域医療計画と地域包括ケアシステムがこの国の健康政策の中心である、と書かれました。
住  吉
具体的には、どういう仕組みになっているのでしょうか?
田  中
仕組みとしては、やや重くなった方については、自宅、あるいは介護付きホームやサービス付き高齢者住宅、グループホームも含みますが、そういうところで医療と介護が切れ目なく連携していることです。切れ目のない連携とは、お医者さんや看護師さん、栄養士さん、薬剤師さんなどが、チームで1人の方のサポートをしていきます。この人たちが同じケアプランを共有し、その人がひと月後にはどうなるだろうという予測を共有していくこと。これによって、連続的で切れ目のないサービスができます。これが地域包括ケアの一番重要な部分です。
住  吉
前半で、地域包括ケアシステムには5つの要素があるとおっしゃいましたが、今一度この5つの要素について教えてください。
田  中
まずは、「医療」ですね。特に在宅医療はとても大切です。毎日自分で外来に通ったり、お医者さんに来てもらったりする、在宅医療。それから、「介護」サービスですね。そして、元気な人もやや弱った人も大切な「予防」ですね。介護が必要になったらサービスを受けるのではなくて、介護が必要になるのを遅らせることは可能です。予防というのは、プロが行うよりも本人が参加しないと意味がありませんので、本人が生きやすくなるような予防の仕組み。予防というのは、体の予防だけではないです。高齢期にとっては口の中の健康、口腔ケアと言いますが、歯があること、飲み込めること、健康に喋れること、これを口腔ケアと言って、とても重要視しています。それから、栄養ケア。高齢者の女性の半分ぐらいは栄養が足りないんですよ。特に配偶者が亡くなってしまったりすると、ご飯を作る意欲や食べる意欲が減ってきて、思わぬうちに水分不足や栄養不足になったりします。これらは全て予防です。介護サービスとは違います。再び、お茶を飲んで、お喋りしながらご飯を食べる意欲を湧き立たせる。これは予防です。